研究発表「食の神学から見た身体性・動物性・大地性」、日本基督教学会 近畿支部会、パネル「「なぜ食を問うのか──食の神学の課題と展望」、2020年9月4日
【発表要旨】
神の国(支配)を開示するイエスの食卓(最後の晩餐)、ペトロの食卓をめぐる問題(ガラ2:11-14)や彼の回心(使10:1-48)など、新約聖書における重要部分が「食」にかかわっている。また、大胆な開放性を伴ったイエスの「共食」を伝統的な宗教・政治秩序への挑戦と見なすなら、食の神学的重要性を再認識することは、キリスト教の起源と現代性を鋭利に問う作業となる。本発表では、西洋キリスト教が人間の身体性や動物性、さらには命や食を生み出す大地を過小評価してきた伝統を、食の神学を通じて批判的に考察する。また、イスラームにおけるイフタール(断食後の「共食」)と比較することにより、一神教伝統内における差異を明らかにしつつ、現代の食の問題への応答を試みる。
また、食の神学を考えることは、ポスト・コロナの神学的営為ともなる。大学での授業や会議をはじめ、オンラインでのやり取りが急増し、バーチャル空間での滞在時間が長くなる中で、我々の身体は新しいバランス感覚を必要としている。避けがたく拡大するバーチャルな世界を批判的に対象化しつつ、それを包摂することのできる新しい世界観(コスモロジー)が求められている。感染防止の一環として食事作法にも大きな制限が加えられている今日、共に食することの意義を問い直すこともできるだろう。