森孝一編著、同志社大学一神教学際研究センター企画『ユダヤ教・キリスト教・イスラームは共存できるか── 一神教世界の現在』、明石書店
第13章 「キリスト教世界」において何が共存を妨げてきたのか──「宗教の神学」の現状と課題
小原克博
1.はじめに
「共存を妨げるもの」が何かを考えるとき、その対象を多様に設定することができるが、ここでは主としてキリスト教内部の要因や動向とその外部世界との関係を中心にして考察を進めていく。その際、ある教義などを阻害要因として特定し、還元主義的に考えていく方法を本稿はとらない。なぜなら、同じ要素が状況に応じて、ポジティブにはたらく場合もあれば、ネガティブにはたらく場合もあるからであり、ここではむしろ、共存を妨げる状況を誘引してきた条件設定や歴史的コンテキストに注目していきたい。
言うまでなく、キリスト教世界における「共存を妨げるもの」を分析していくためには、キリスト教あるいは一神教の内部に目を向けるだけでは十分ではない。むしろ、非キリスト教世界との間で形成されてきた関係に着目することによって、「共存を妨げるもの」の特質を明らかにしていく必要がある。その目的のために、本稿では、日本の事例や、キリスト教の他宗教理解を積極的に取り上げていく。
表題にある「キリスト教世界」という括弧付きの言葉によって示したいのは、この言葉がある特定の歴史状況の中で用いられた言葉であり、その言葉が指し示す実体をいきおい普遍的なものとは考えないということである。後に示すように、とりわけ近代以降、「キリスト教世界」という概念は、他の世界に対する排他的関係を前提にして用いられていた。この概念が、非キリスト教世界との関係を論じる際に、どのような役割を負わされてきたのかを考えることを通じて、「共存を妨げるもの」の諸相を見ていく。ただし、ここではキリスト教史の全体を振り返ることは難しいので、差し当たり、今日の私たちが抱えている諸問題の直接的な原因や前提となっている近代以降の変化に焦点を当てていくことにする。
※続きは、本書をご覧ください。