世界キリスト教情報

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世界キリスト教情報 第1016信(2010.07.12)

  • ルーテル派の「反ユダヤ」教義修正をオランダの神学者が提起
  • 世界学生キリスト教連盟が経済・社会・環境問題に取り組む若者助成
  • 『キリスト軍団』を管理する教皇代理に聖座財務部長パオリス大司教
  • クリスタル・カテドラルのシュラー牧師引退
  • 米YMCAが「ザ・ワイ」に、とNYタイムズ紙
  • マーラー生誕150年、バチカン紙がワルターのエッセイ再録
  • ゴスペル・シンガー、ウォルター・ホーキンス牧師死去
  • 《短信》
  • 《メディア展望》

◎ルーテル派の「反ユダヤ」教義修正をオランダの神学者が提起

 【CJC=東京】マルチン・ルターの教義の核心である信仰義認は、「反ユダヤ」に結びつくとして、公式修正が必要だ、とオランダのユダヤ系神学者ルネ・シュス氏が問題提起している。
 義認教義は、罪人の義を宣言する神の行いであり、救いはイエスを信じることのみで達成されるというもので、いわゆる「宗教改革」の根幹をなしている。「この義認教義と呼ばれる堅固な岩こそキリスト教教義全体の中核」とするルターの主張が「反ユダヤ」につながる、という見方は、プロテスタント教会として無視出来ない。世界教会協議会(WCC)系のENI通信が取り上げたのも、そこに注目したもののようだ。
 ルターはカトリック教会の反ユダヤ主義に抗議していたが、ユダヤ人がキリスト教に改宗しないことに失望したルターは、1543年に反ユダヤ主義のパンフレット『ユダヤ人と彼らの嘘について』を発表した。シュス氏の『ルターの神学的証言。ユダヤ人とその嘘について』の初刷りは2006年に発行されたが、それにはルターの1543年の著作のオランダ語訳も含まれている。
 シュス氏は、ルターは晩年だけでなく生涯を通じて反ユダヤだった、と言い、さらにルターのユダヤ人観とナチス・ドイツのホロコーストが直結していると言う。「わたしの目的は、ルターの反ユダヤ文書をお蔵入りさせ、わたしたちユダヤ人を脅かさないようなキリスト教の自己理解に立った教義の展開を求めること」と、6月に発売された著書の第2刷で述べている。
 ユダヤ系の父とルーテル派信徒の母を持つシュス氏はオランダ改革教会の隠退牧師。現役時代は1984年から99年に掛けて首都アムステルダム市内と近郊の教会に仕えた。99年にキリスト教を離れ、ユダヤ教徒になった。オランダ改革教会はプロテスタント教会に統合した3教派の中では最大。
 1984年、ルーテル世界連盟(LWF)は、正式にルターの反ユダヤ文書を放棄した。これらの著作がナチス・ドイツに利用されたことが放棄の遠因になっている。
 ただシュス氏は、ルターの著作がナチスによって誤用されたとするLWFの見解に対しては、ルターの著作は彼の意図をその通りに表わしたものだ、と主張する。
 2008年、オランダ・プロテスタント教会内のルーテル派大会は、シュス氏との関係を断った。ルーテル派のヨープ・ブンデルマーカー教授の著作を痛烈に批判したのを受けてのこと。プロテスタント教会としてはルーテル派の動きを支持した。
 しかし、同年、シュス氏は、プロテスタント教会と密接な関係にあるイスラエル支持組織『協会とイスラエルへの訴え』の年次会議の基調講演者を務めてもいる。アムステルダムで開催された会議の主題は「ルターと彼の嘘=キリスト教神学の核心にある反ユダヤ主義」だった。


◎世界学生キリスト教連盟が経済・社会・環境問題に取り組む若者助成

 【CJC=東京】世界学生キリスト教連盟(WSCF)は7月9日、経済・社会・環境問題や社会正義に取り組む若者を助成するため『ミラン・オポチェンスキー記念ファンド』を設立する、と発表した。名称に取り入れられたオポチェンスキー氏はチェコの神学者でエキュメニズム(教会一致運動)に貢献、1967〜73年にWSCFの欧州担当幹事を務めた。
 『ミラン・オポチェンスキー記念ファンド』は、教派を問わず若いキリスト者がそれぞれの学校、地域、国家で、経済・環境・社会的な不義と戦うことを支援するもの。オポチェンスキー氏のかつての同僚や友人が主導してファンドが実現した。


◎『キリスト軍団』を管理する教皇代理に聖座財務部長パオリス大司教

 【CJC=東京】教皇ベネディクト16世は7月9日、信心会『キリスト軍団』(レギオナリ・ディ・クリスト)を管理する教皇代理に、聖座財務部長のヴェラシオ・デ・パオリス大司教を任命した。
 『キリスト軍団』は、マルシャル・マヒエル神父が1941年、メキシコで創設した団体。マヒエル神父は、幼児性愛、神学生への性的虐待で告発されたものの、2004年まで軍団を支配した。08年に87歳で死去したが、さらに愛人と令嬢がいることも報じられた。
 教皇代理は、『キリスト軍団』を管理し、現在の指導者はその指示に従うことになる。会則検討委員も任命される。
 『キリスト軍団』は世界22カ国にいる約800人の司祭と2500人以上の神学生が会員。信徒運動である『レグヌム・クリスティ』の会員は約7万人と見られる。
 教育に力を入れ、小神学校、神学校を含め学校、大学をメキシコ、ベネズエラ、コロンビア、チリ、ブラジル、アイルランド、仏、独、カナダ、米国、フィリピンなどで運営している。
 総資産は250億ユーロ(約3兆円)とイタリアのニュース週刊誌『レスプレッソ』は評価している。


◎クリスタル・カテドラルのシュラー牧師引退

 【CJC=東京】米カリフォルニア州ガーデングローブに『クリスタル・カテドラル』を建設、米国でも著名なメガチャーチ(巨大教会)を作り上げ、世界規模にテレビ伝道「力の時」を展開したロバート・H・シュラー牧師(83)が7月11日、55年にわたる伝道活動を長女のシーラ・シュラー・コールマン氏(59)に譲り、引退すると発表した。今後は新設されるクリスタル・カテドラル教会会議議長に就任する。
 シュラー氏は11日朝の礼拝で、「シーラがカリフォルニア大学アーヴァイン校で博士号を取得し、大学から優秀卒業生賞を授与されたことを誇りに思う」と語り、長女への期待を明らかにした。
 2年前、意見の違いから子息が教会を離れて以来、シーラ氏への移行は予想されていた。
 会員数1万人といわれるクリスタル・カテドラルだが、不景気による献金減少などで負債が5500万ドル(約50億円)に達するなど課題も大きい。


◎米YMCAが「ザ・ワイ」に、とNYタイムズ紙

 【CJC=東京】米国は略称が盛んな国だが、YMCAもついに「ザ・ワイ」(The Y)と呼ぶことになった、とニューヨーク・タイムズ紙が報じている。
 YMCAは1844年、ロンドンでジョージ・ウィリアムズら12人の青年キリスト者によって、青年に対する啓蒙および生活改善のための奉仕団体『キリスト教青年会』として創立された。英語の名称から、「YMCA」と呼ばれて166年、内部では「Y」とも呼ばれて来た。
 ケイト・コールマン副会長兼マーケティング担当は「暖かみ、純粋、歓迎」といったYMCAの特徴を訴えたい、としている。
 ニール・ニコル会長兼CEOは「私たちのやっていることを短く語りたい。呼び名もそうだ」と言う。
 こうなると、あの有名な「YMCAの歌」はどうなるか。米国では、企業名の略語化が盛んだが、ついには非営利団体にも及んで来たとして、タイムズ紙は略称辞典が必要になると予測している。


◎マーラー生誕150年、バチカン紙がワルターのエッセイ再録

 【CJC=東京】作曲家、指揮者として活躍したグスタフ・マーラーの生誕150年を迎え、バチカン(ローマ教皇庁)の機関紙『ロッセルバトレ・ロマノ』が、これも著名な指揮者ブルーノ・ワルターが1936年に発表したエッセイを再録した。
 マーラーもワルターもユダヤ教からカトリックに改宗している。マーラーは、ウイーンでの活動にからんで37歳の時に改宗、一方でワルターは晩年の改宗。


◎ゴスペル・シンガー、ウォルター・ホーキンス牧師死去

 【CJC=東京】1980年にグラミー賞を受賞したゴスペル・シンガー、ウォルター・ホーキンス牧師が7月11日、膵臓癌のため米カリフォルニア州リポンの自宅で死去した。61歳。
 同州オークランド生まれ、カリフォルニア大学バークレー校で神学を修めた。1972年に最初のアルバム「ドゥ・ユア・ベスト」を録音した。翌年、牧師になり、オークランドに『ラブ・センター・チャーチ』を設立した。受賞作のほかにもグラミー賞候補には9回挙げられている。


《短信》CJC通信Twitter速報『cjcpress』から。

▽インド・ケララ州で、イスラム教過激派と見られる集団が、7月4日、カトリックの大学教授T・J・ジョセフ氏を襲撃、手を切断した。試験の出題にイスラム教を侮辱する記述があったから、という。 
▽教皇ベネディクト16世は7月7日、水曜日恒例の正午の接見の後、バチカンからローマ東南の夏の離宮、カステルガンドルフォに入った。9月まで滞在の予定。
▽ミクサ・アウグスブルグ司教の後任に、ゲルリッツのコンラート・ダルサ司教。
▽ブリュッセルの引退大司教ゴッドフリード・ダンニールス枢機卿が、検察当局の尋問を受けていることが明らかになった。「性的虐待事件の少なくとも50例については知っていた」とされている。
▽英国国教会聖アルバンス教会のジェフリー・ジョン主任司祭が、サウスワーク主教の候補者の1人となっていることが分かり、教区内に混迷が広がったが、結局は指名されなかった。同司祭は同性愛者で、2003年には、それを理由にレディング教区補佐主教任命を辞退するよう圧力がかかっていた。
▽ニューヨーク・タイムズ紙が7月9日の社説で教皇を批判。
▽米長老教会(PCUSA)の教勢は2009年に207万7138人と前年比3%減少した。最大だった1965年の425万人の半数以下に低下している。
▽米カリフォルニア州サクラメント教区で1979年から93年まで司教を務めていたフランシス・クイン氏が、『第3バチカン公会議』の開催を呼び掛けた。人間と性に関する教義を検証しようというもの。
▽キューバ・カトリック教会は、釈放が予定される「政治犯」をまず17人と想定している。11月までに釈放されると見られるのは52人。


《メディア展望》

  =カトリック新聞(7月11日)=https://www.cwjpn.com
★ハンセン病=過去知り差別なくそう=仙台で「市民の集い」結成
★2010年平和旬間=司教協会長が談話発表=「日本の植民地政策」=真摯に振り返ることが大切
★名古屋教区=初の社会福祉セミナー=20余りの団体が連携深める
★平和節=6月23日〜8月15日=正平協仙台協議会 今年から実施=高校生ら体験基に発表
★教皇、捜査方法を批判=ベルギー警察=枢機卿の墓も

  =キリスト新聞(7月10日)=https://www.kirishin.com
★聖書配布で「配慮」欠く?="保護者、学校、市教委が困惑"と佐賀新聞
★日本エキュメニカル協会=エディンバラ2010 宮本憲氏が報告="全教会的一致への意気込み"
★ルーテル学院大学×東京神学大学=隣同士が旧約研究会
★国際飢餓対策機構=一般財団法人として新たに始動=「ハンガー・ゼロ」で西アフリカ支援
★日本長老教会社会委セミナーで住田裕氏="環境問題は人間の罪"

  =クリスチャン新聞(7月11日)=https://jpnews.org
★沖縄6・23慰霊の日=65年目の「戦後」いつまで
★ハンガー・ゼロ・アフリカ目指す=一般財団法人7月スタート=日本国際飢餓対策機構
★喫茶店で劇・賛美・講演=交わり通して福音伝える=東京・京橋「サロンITCN 大山」がキックオフ
★主事の待遇改善、務めの意識改革の体験語る=第3回アドミニストレータの集い
★飯島信NCC総幹事辞任=輿石議長が代行を兼務


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