世界キリスト教情報

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世界キリスト教情報 第956信(2009.05.18)

  • 教皇が聖地"巡礼訪問"、イスラエルで反ユダヤ主義を批判
  • 教皇、ホロコースト記念館を訪問
  • 宗教を分裂の原因にしてはならない、と教皇
  • 教皇、岩のドームにイスラム指導者らを訪問
  • 教皇、ベツレヘム訪問、パレスチナ市民の権利を強調
  • 教皇、ナザレでミサ、4万5千人以上が参加
  • 教皇"聖地巡礼"を終えローマに
  • 《メディア展望》

◎教皇が聖地"巡礼訪問"、イスラエルで反ユダヤ主義を批判

 【CJC=東京】聖地を"巡礼訪問"中の教皇ベネディクト十六世は5月11日午前、ヨルダンのアンマン・クイーン・アリア空港での送別式を経て、空路イスラエルのテルアビブ・ベングリオン空港に到着した。空港にはシモン・ペレス大統領とベンヤミン・ネタニヤフ首相が出迎えた。首相の出迎えは国家元首の場合とするのが慣習で、教皇への敬意を示す重要な行為と見られる。
 空港での歓迎式で教皇は英語で、「聖座(バチカン)とイスラエル国とは多くの価値を共有しており、とりわけ社会生活の中で宗教を正当な位置に置くことで共通している」と述べた。「社会的な関係の正しい秩序は、全ての人類の自由と尊厳を前提とし、またそれを必要とする。キリスト者であれ、イスラム教徒であれ、ユダヤ教徒であれ、等しく愛の神によって創造され、永遠の命を約束されている。人類の宗教的側面が否定されたり、隅に追いやられる時には、奪うことの出来ない人権の正しい理解のための根底が危機にさらされている」と言う。
 「悲惨なことに、ユダヤ人は、全ての人類の根源的な尊厳を否定するという思想の恐るべき影響を経験した。私のイスラエル滞在中、ショア(ナチスによるユダヤ人大量虐殺=ホロコースト)の犠牲者600万人の記憶に敬意をはらい、人類がこのような重大な犯罪を決して再び目の当たりにすることのないように祈る機会を持ちたい」と教皇は語った。
 「悲しむべきことに、反ユダヤ主義は世界各地でその醜い頭をもたげつつある。これはまったく受け入れられない。どこであれ発生する反ユダヤ主義と闘い、全地球上の人類、種族、言語、国家、世界のすべての成員に対する尊重を育てるために努力しなければならない」と教皇は主張した。
 「イスラエル滞在中、著名な宗教指導者と会える。『主の神殿の山に国々はこぞって大河のように向かう。主はわたしたちに道を示される。わたしたちはその道を歩もう』というイザヤの預言が成就するように」と教皇は語った。
 ペレス大統領は教皇に対し「聖地への訪問は平和の使者という重要な使命である。世界にある暴力と憎悪を軽減させようとするあなたの立場と行動を賞賛する。これは預言者の精神に基づくユダヤ教とキリスト教の間の対話を継続させるものとなる。飢える人を満たし、宇宙の創造主と人に対する信仰への渇きを潤すあなたの努力をたたえる」と語った。「わが国は資源は貧しいが、信仰は豊かだ。わが国は半分が砂漠だが、人的資産という力と生まれて来た全ての子どものために正義を求める社会の上に繁栄する商業を建設して来た」と言う。


◎教皇、ホロコースト記念館を訪問

 【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世は5月11日、テルアビブ・ベングリオン空港に到着、歓迎式の後ヘリコプターでエルサレムに移動、ニル・バルカト市長の歓迎を受けた。その後、教皇はエルサレムの『ヤド・バシェム・ホロコースト(ユダヤ人虐殺)記念館を訪問、記念の灯火に点火、黄色の白色の花で飾られたリースを置いた。
 「(虐殺を引き起こした)憎しみが人々の心を支配し続けることがないよう、カトリック教会が全力を尽くすことを約束する」として「犠牲者の苦しみが忘れられることがないよう願う」と教皇は英語で演説した。
 同記念館理事長でユダヤ教指導者のラウ師らは「ナチス・ドイツが加害者だったことに言及しなかった」などと演説内容への不満を表明した。


◎宗教を分裂の原因にしてはならない、と教皇

 【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世はイスラエル訪問初日の5月11日、最後の行事として、キリスト者、ユダヤ教徒、イスラム教徒、ドルーズ派、サマリア派などの代表と、教皇立エルサレム・センター・ノートルダム研究所講堂で会談した。同研究所は故ヨハネ・パウロ二世が宗教、文化、慈善、教育プログラムを行うために設立した。
 教皇は英語の演説で「私たちの違いは必然的に分裂の原因であるのだから容認されるべきものだ、と言われる。私たちの声をとにかく封じるべきだ、とする人もいる。しかし私たちの違いは、私たちの間でも社会一般でも、抗争や緊張の不可避の原因だと誤解されることがあってはならない」と述べた。
 教皇は、会談参加者に、私たちを分けているもの全てに敬意を払い、私たちを祝福された被造物として結び付けることを全て推進し、私たちの共同体と世界に希望をもたらす願いと共に勇気を持って前進するよう勧めた。
 教皇の演説が終わると、エルサレムのイスラム法廷の最高判事シェイク・タイシル・タミミ氏が、プログラムにはないのに壇上に上がり、アラビア語でイスラエルを非難する発言をした。会場内がざわめく中、ユダヤ教徒2人が退席した。エルサレムのフアル・トゥワル・ラテン典礼大司教は発言をやめさせようと壇上に上った。教皇はアラビア語を解さないので、判事が何を述べたかは分からなかった。
 バチカン(教皇庁)広報事務所長のフェデリコ・ロンバルディ神父は、シェイクの乱入を、主催者側の予期しなかったこと、とする声明を発表した。


◎教皇、岩のドームにイスラム指導者らを訪問

 【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世はイスラエル滞在2日目の5月12日午前、エルサレム旧市街に入り、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教のそれぞれのシンボルとして、岩のドーム、嘆きの壁、最後の晩餐の行われたとされる場所を訪れた。
 早朝、岩のドームを訪問した教皇は、イスラム教指導者らに迎えられた。教皇は習慣に従って靴を脱ぎ、神殿に入った。
 バチカン放送(日本語電子版)によると、付属の施設で行なわれたイスラム教共同体の代表者らとの集いの挨拶で、教皇は分裂に傷ついた世界において、この地が過去の無理解と闘争を乗り越え、未来の世代のために正義と平和を築くための刺激となっていくことを要望した。
 その後、教皇は、ヘロデ王が再建した神殿の外壁の一部で、「西壁」とも呼ばれる、「嘆きの壁」に向かった。
 教皇は壁の前で、主席ラビと共に、ヘブライ語とラテン語でエルサレムの平和のために祈りを読み上げ、聖地と中東、全人類の平和と、すべての人が正義と慈愛の道を一致して歩むことを神に願うメッセージを、祈りと共に、壁石の間に差し込んだ。
 続いて教皇はヘファル・シュロモ・センターに主席ラビを表敬訪問、ユダヤ教とキリスト教の対話の促進をテーマに挨拶を交わした。
 正午近く、最後の晩餐の『高間』を訪れた教皇は、聖地のカトリック教会関係者らと会見した。
 午後、エルサレムのゲツセマネ教会とオリーブ山の向かい側に広がるヨサファトの谷でミサをささげた。教皇は説教で、この都が「平和の道」を知ることを切望し、その愛のために泣いた場所であることを想起し、ミサに集った聖地の信者たちを前に、この地で続く闘争のために彼らが直面する困難や悲しみ、苦しみに心を留め、多くの家族が土地を捨て流出せざるを得ない状況に、深い連帯を寄せた。教皇は、エルサレムがすべての民族にとって真に「平和の都市」、皆の巡礼地、すべての人がいられる場所であるよう強調された。


◎教皇、ベツレヘム訪問、パレスチナ市民の権利を強調

 【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世は5月13日、パレスチナ自治区のベツレヘムを訪問、マフムード・アッバース大統領はじめ、パレスチナ自治政府関係者ら出席のもと、歓迎式に臨んだ。
 バチカン放送(日本語電子版)によると、挨拶で教皇は長い闘争のために苦しみ続けるパレスチナの人々に心を寄せられ、特に家を失った人々、家族を亡くした人々のために祈りを約束した。「教皇庁は、パレスチナの人々が主権国家を持ち、祖先の土地において、国際的に承認された境界の中で、安全に、近隣の人々と平和に生活する権利を支持する」と教皇は述べ、その実現は遠いように思われても、イスラエルとパレスチナの双方が熱望する平和と安定を目指す希望を保つよう勇気付ける言葉をおくった。
 教皇はまたイスラエルとパレスチナの治安上の問題が解決されることで、人々の移動の自由が可能になることを要望、パレスチナの人々も他の人々と同様に、結婚し家庭を築き、仕事や学校、病院に行く権利があると述べた。さらに、特にガザ地区をはじめ闘争で破壊された家々や学校、病院の再建が早期に行なわれるよう、国際社会に協力をアピールした。
 この日、教皇は生誕教会前でパレスチナの信者と共にミサを捧げたほか、カリタス小児病院やアイーダ難民キャンプ訪問、アッバース大統領との会談を行なった。


◎教皇、ナザレでミサ、4万5千人以上が参加

 【CJC=東京】イスラエル訪問中の教皇ベネディクト十六世は5月14日午前、ナザレのプレチピツィオ山でミサを捧げた。4万5千人以上が参加した。
 バチカン放送(日本語電子版)によると、教皇はこのミサで、ナザレの聖家族を思いおこしながら、両親や子どもの役割に言及した。過去にナザレで起きたイスラム教徒とキリスト教徒間の緊張についても触れ、憎しみや偏見の破壊力に負けず、平和な共存のための橋を築いていくよう、信者たちに呼びかけた。ミサの終わりに教皇は、ナザレに創立される『家庭のための国際センター』の礎石と共に、聖地で初めてのアラブ・カトリック系大学、および『ヨハネ・パウロ2世記念公園』の礎石を祝別した。
 その後、教皇は受胎告知教会(お告げの教会)の付属ホールで、ガリラヤ地方の諸宗教関係者らと会見した。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、ドゥルーズ派の代表者らが多数出席した。教皇はこの席で、宗教を超えて善意の人々が一致し、よりよい世界の構築に努力しながら、子どもたちを狂信主義や暴力から守っていこうと呼びかけた。また、「平和の文化」と相互尊重を育て、巡礼地をめぐる諸宗教間の緊張をなくし、静かな祈りの環境をすべての人に保証する必要を述べた。集いの終わりに、「シャローム」「サラム」「ピース」と平和の言葉が歌われる中、教皇はユダヤ教とイスラム教の指導者らと手を取り合い、その腕を天に高く上げた。
 ナザレでの一日の締めくくりとして、教皇は『お告げの洞窟』を巡礼、受胎告知教会で、地元の教会関係者らと共に夕べの祈りを唱えた。


◎教皇"聖地巡礼"を終えローマに

 【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世は"聖地巡礼"訪問最終日の5月15日、エルサレムで、二つのエキュメニカルな出会いを行った。
 早朝、正教会のエルサレム総主教庁で、テオフィロス三世総主教はじめ、聖地の諸キリスト教教会の代表者らと会見した教皇は、キリスト者の一致に向けてのさらなる努力と、共に神の愛を証しすることの必要を強調した。
 また、教皇はアルメニア使徒教会のトルコム・マノキアン・エルサレム総主教を訪問、両教会の友好と協力を確認した。
 教皇は、聖墳墓教会を巡礼、石墓の前に跪き深い祈りを捧げ、「キリストは復活された。愛は死よりも強い」と説教を行なった。
 その後、教皇はテルアビブに向かい、空港での送別式で「流血、対立、テロ、戦争のない世界を!」と再び呼びかけた。
 教皇は、同日夕方、ローマに帰着した。


《メディア展望》

  =カトリック新聞(5月17日)=https://www.cwjpn.com
★新型インフルに対応=メキシコ・「最も弱い人々」を支援 聖母への祈りも呼び掛ける=米国・ミサの実践 変更可能に 両形態の拝領避けるなど
★教皇 聖地を巡礼=まずヨルダンを訪問=少数派キリスト者激励し イスラム穏健派に歩み寄る
★学校長・理事長・総長管区長の集い=困難越え、新たな発展も=教職員養成や学校間の連携強化
★山口、韓国で体験学習=北海道の青年「アジアの中の日本」知る
★パレスチナ問題で市民集会=東京・立教大学=キリスト者との接点は何か=エルサレムから聖公会司祭来日
★喜びの信仰伝えよう=台湾の大司教、教会新聞を改革

  =キリスト新聞(5月16日・休刊)=https://www.kirishin.com

  =クリスチャン新聞(5月17日・休刊)=https://jpnews.org


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