世界キリスト教情報 第930信(2008.11.10)
- バチカンとイスラム指導者が対話促進へフォーラム
- バチカン、聖職者候補への心理テストを容認、同性愛指向をチェック
- 米で同性婚禁じる住民投票、カリフォルニア州など可決
- 「21世紀の教会にほ本物の指導者が必要」とニョミ氏
- 米国教会は21世紀の奴隷制度の罪に注目
- 聖墳墓教会に安全上の懸念
- モスクワでイエズス会士2人殺害の容疑者拘留
- 《メディア展望》
◎バチカンとイスラム指導者が対話促進へフォーラム
【CJC=東京】バチカン(ローマ教皇庁)が各国のイスラム指導者、知識人の代表を招き、カトリックとイスラムの対話を促進するためのフォーラムを11月4〜6日、ローマの教皇庁立グレゴリアン大学で開催した。
イスラム教の「聖戦(ジハード)」を批判したとされる一昨年の教皇ベネディクト十六世の発言で傷ついた関係の修復が狙い。教皇は06年9月12日、かつて教鞭をとったレーゲンスブルグ大学を訪問、学者・研究者たちに講義した際に「(預言者)ムハンマドがもたらしたのは邪悪と残酷さだけだ」とする中世ビザンチン帝国(東ローマ帝国)のマヌエル二世パレオロゴス皇帝の言葉を引用、「皇帝とペルシャ人が1391年に交わした対話に関する書籍を読んだ。皇帝は対話の中でジハード(聖戦)について言及した。宗教と暴力の関係について皇帝は『ムハンマドが新しくもたらしたものを私に見せよ。邪悪と残酷さであり、彼が教えた信条を剣で広めたということだ』と語った」と講義している。
この発言にイスラム側の反発が高まった。10月に入って、ヨルダンのガジ王子を中心に中東、東南アジア、欧州など43国のイスラム学者、イランのシーア派指導者ら138人が、教皇やプロテスタント諸派、東方正教会などのトップに「同じ神への信仰と隣人愛を共有する両宗教の対話」を訴える公開書簡を送り、今年3月、フォーラム開催が正式決定した。イスラム側の書簡への署名者はその後275人にまで拡大している。
フォーラムではバチカンの諸宗教対話評議会議長ジャン=ルイ・トーラン枢機卿と、ボスニア・ヘルツェゴビナのスンニ派イスラム法学最高権威、ムスタファ・チェリッチ大ムフティを代表とする双方それぞれ29人が「人間の尊厳」「信教の自由」などについて討議した。ヨルダン王立イスラム思想研究所を主宰するガジ王子も加わった。
教皇は、バチカンで6日、フォーラムの参加者と会見、「人間の中心性と一人ひとりの尊厳、神からの賜物であるいのちを尊重するという認識があってこそ、兄弟愛に満ちた世界を共に築くための基盤を得ることができる」と強調。人間の尊厳と基本的権利を推進・擁護するために協力しながら、平和の未来を共に築いていきたいと語った。
バチカン放送(日本語電子版)によると、教皇はこ、基本的人権である信教の自由が守られるよう、世界の政治・宗教リーダーらにアピールされ、宗教を理由にした暴力や差別・迫害は決してあってはならないと訴えた。
「神の名は、平和と友情、正義と愛の名」であると述べた教皇は、両宗教が調和と相互理解のメッセージを言葉と行動を通して絶えず示していく必要を示し、過去の先入観を乗り越え、共通の未来に向かって、特に若者たちの育成に努めながら、今後より広い対話を発展させていきたいとの希望を教皇は表明した。
◎バチカン、聖職者候補への心理テストを容認、同性愛指向をチェック
【CJC=東京】バチカン(ローマ教皇庁)は10月30日、カトリック聖職者候補の神学生に同性愛の指向があるかを調べるうえで、心理テストが有効である可能性があるとの文書を公表した。
AFP通信によると、教皇ベネディクト十六世が承認した「聖職者候補の承認および編成における心理学の使用に関するガイドライン」と題されたこの文書は、神学校での心理テスト実施を容認しているものの、神学生候補者が事前に通知された上で、自由意志にもとづき明確に同意することが必要だとしている。
カトリック教会は、信仰と心理学の関係について長年検討を重ねており、ここ数年カトリック教会を揺るがしている少年に対する性的虐待が、今回の文書が作成された理由ではないという。
◎米で同性婚禁じる住民投票、カリフォルニア州など可決
【CJC=東京】米大統領選が実施された11月4日、同時に行われたアリゾナ、カリフォルニア、フロリダ各州の住民投票で、同性結婚権の廃止を求めた州憲法改正案が可決された。米国内では多くの州が法律で同性結婚を認めていない。一方、人工妊娠中絶や受精卵を使う胚(はい)性幹細胞(ES細胞)研究を禁じるコロラド州の提案、妊娠中絶を原則禁止するサウスダコタ州の提案などは否決されている。
同性婚に反対してきた保守派のロビー団体、家族研究協議会のトニー・パーキンス氏は、ロイター通信に「共和党が負けたが、伝統や道徳が拒絶されたわけではなかった。オバマ氏に票を投じたフロリダとカリフォルニアの2州で改正案が通ったからだ」と述べた。
カリフォルニア州では5月に州最高裁が同性婚を認める判決を下しており、今回の住民投票を受けて、これまでに行われた約1万8千組の同性カップルの法的地位をめぐり議論が高まっている。
◎「21世紀の教会にほ本物の指導者が必要」とニョミ氏
【ジュネーブ=ENI・CJC】教会は神への信仰と関わりについて働く勇気のある指導者を必要としている、と世界改革連盟のセトリ・ニョミ総幹事が10月24日語った。「21世紀の教会は、各個教会から地域、国、世界規模まであらゆるレベルで、生涯をかけられる本物の指導者が必要だ」と言う。
同氏が米プリンストン神学校の同窓会に出席、2008年の顕著な卒業生として表彰された際に語った。神学校は今日の世界が直面する課題に取り組むための用意を多くの卒業生に与えてくれた、と言う。挑戦の多くは地球規模の経済から生じた、とニョミ氏は指摘した。
◎米国教会は21世紀の奴隷制度の罪に注目
【オクスフォード(米オハイオ州)=ENI・CJC】米国の各教派と教界団体は「21世紀の奴隷制度」と指摘されるまでに広がった人身売買への取り組みを展開している。
カリフォルニア州レッドウッドシティのぺニンスラ・カベナント教会はこの数週間で約3万5000ドル(約350万円)を集め、それを元に教会員や地域の啓発に乗り出した。「鎖を断ち切れ」という主題の教育プログラムの一部として、教会員は教会のドアに巨大なチェーンを置いた。
シカゴに本部を置く福音カベナント教会は、今日の奴隷制度を取り上げたビデオを制作した。年内に同派の全教会で使われる予定。
これらは個別の教派なり教会が、米キリスト教協議会(NCC)など超教派的な取り組みの枠組の中で始めたもの。
NCCと合同メソジスト女性部が9月29日から10月1日までオハイオ州オクスフォードで開催した会議では、人身売買の複雑さと悲劇について会員に教育することを決めた。
◎聖墳墓教会に安全上の懸念
【CJC=東京】聖地エルサレムの聖墳墓教会はキリスト教各派の共同管理となっているが、権限をめぐる対立が絶えず、11月9日にもアルメニア使徒教会とギリシャ正教会の聖職者間で乱闘騒ぎを引き起こしているが、問題は観光客の急増に安全対策が追い付かないことの方が深刻だ。
非常口の不足が最も深刻で、一時に1000人以上の観光客が詰め掛けた時に、燭台が倒れて火事になったら、狭い出入り口は後から詰め掛けた人と押し合いになって惨事になる、と現地観光案内者は予測する。
イエスが十字架に掛けられたとされるゴルゴタに通じる急勾配の大理石階段も、巡礼者が足を滑らし危険だ、と言う。
解決策は、出口新設や入場時間の延長だが、管理権を主張するカトリック教会、東方正教会、アルメニア使徒教会、コプト正教会、シリア正教会の合意を得るのは困難。
聖墳墓教会は現在、各派の共同管理となっており、1日中いずれかの教派がミサなどを行っている。
エチオピア正教会は、オスマントルコなどのイスラム教勢力が強かった時代に教会を守っていたものの、管理権を認められていないまま、屋根中庭とデア・アル=サルタン修道院を占拠している。
その修道院も崩壊の危険が指摘されている。礼拝堂2カ所と修道士の居室が崩壊すると、そこに住んでいる修道士や多数の観光客を傷つけるだけでなく、聖墳墓教会自体にも影響を及ぼしかねない。
このほど構造を調査した技術者は、「人命の危険」があると述べた。電気関係や排水にも問題があるという。
◎モスクワでイエズス会士2人殺害の容疑者拘留
【モスクワ=ENI・CJC】ロシア・トヴェーリ州の男娼がイエズス会士2人殺害の容疑者として警察に拘留された。
オットー・メスメル司祭(47、カザフスタン出身のドイツ系ロシア人)とビクトル・ベタンクール司祭(42、エクアドル出身)の死体がモスクワ市内ペトロフスカ通りのアパートで10月28日発見された。頭部に傷があった。
警察は、2人が約24時間隔で別々に殺された、と発表した。
RIAノボスチ通信は、「容疑者が飲酒後、アパートでベタンクール司祭と口論の際に殺害、その後24時間も飲酒していた所にメスメル司祭が来たので、証拠隠滅のため殺した。さらにウオツカを飲み干してから、数時間後に立ち去った」と警察関係者が語った、と報じている。
容疑者を、性的暴行と強盗の前科がある売春婦と認定した警察が携帯電話の通話を追跡し、市内のゲイクラブで拘留した。中南米出身で殺害の動機は宗教がらみと見られている。
カトリック教会は、現地メディアの殺害報道に反論している。
ロシア正教会系の通信は11月7日、カトリック信徒約200人がベルリンのロシア大使館の前でデモを行い、殺人事件の徹底捜査を要求した、と報じている。
《メディア展望》
=カトリック新聞(11月9日)=https://www.cwjpn.com
★奉仕を通したみことばの実践=教皇 シノドス閉会ミサで促す
★教皇=キリスト者への暴力終結に協力を=各国指導者に呼び掛け
★奄美地区=鹿児島教区評議会=各自の現実、分かち合う=慣れないながらも「手応え」
★教皇ベネディクト16世=来春、アフリカ訪問へ
★カトリック出版連絡会=差別問題学ぶ=東京
=キリスト新聞(11月8日)=https://www.kirishin.com
★「一致と連帯」行方に不透明感=日基教団第36回総会=「戒規申立」決議が無効に
★教皇=ピオ12世の列聖に慎重な姿勢="ユダヤ人との関係を考慮"
★朝鮮半島の課題を探る=恵泉女学園大学キリスト教文化研究所シンポ
★キリスト教功労者を顕彰=池田、山口、加美山、渡辺の4氏
★清水護氏にキリスト教文学会・学会賞 英訳聖書研究の集大成を評価
=クリスチャン新聞(11月9日)=https://jpnews.org
★「牧会塾」来春開講へ=12月にプレスクール=心の時代の牧会課題を共有
★パレスチナ=従業員への暴行でYWCAがイスラエル非難
★NCC靖国神社問題委員会=基地問題、靖国...認識浅く=講演会「米国から見た天皇制」
★道内の教会ネットワークづくり=無牧支援、災害支援、信者の結婚支援願い
★迫害下にある教会のための国際祈祷日=36国・地域の教会のため祈りを=インド迫害の被災者への援助金募金も
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