世界キリスト教情報 第912信(2008.07.07)
- カンタベリー大主教が「正統派」結集に警告
- 英国国教会の保守派主教がバチカンと極秘会談
- 米長老教会総会、同性愛者の聖職叙任に道
- 米長老教会の同性愛者聖職叙任、各中会へ
- ルーテル世界連盟のイシュマエル・ノコ総幹事が引退へ
- ハンセン病患者に生涯を捧げたダミアン神父、列聖に近づく
- 《メディア展望》
◎カンタベリー大主教が「正統派」結集に警告
【ロンドン/エルサレム=ENI・CJC】聖公会(英国国教会)の全世界7700万人信徒の霊的最高指導者カンタベリー大主教ローワン・ウィリアムズ氏は6月30日、神学的な正統と称するもののために、世界聖公会共同体内部で新しいネットワークを設立しようとする指導者グループの計画を批判する声明を発表した。
計画は、エルサレムで6月後半に開かれた『グローバル・アングリカン将来会議』(GAFCON)が出したもので、ウィリアムズ氏は「いろいろ問題が多い」と指摘している。
聖公会共同体内部対立の引き金となったのは、2003年に米聖公会が公然同性愛者で離婚経験のあるV・ジーン・ロビンソン氏をニューハンプシャー州の主教として叙階したこと。
エルサレムでの会議は、米聖公会の動きに反対する主にアフリカとオーストラリアの指導者が計画したもの。新たな「告白している英国国教会派の交わり」設立は、伝統的聖書的なアングリカニズム(英国国教会主義)に違反する、とGAFCON組織者が見なす問題を回避するためのもの、と言う。
ウィリアムズ氏は、「共同体の現体制を捨てれば良いというものではない」として、「有効に機能していないにしても、当面の解決を求めるより改革しようとする挑戦は、一時的には効果があるように見えても、問題を解決するよりは、新たな問題を生み出すことになる」と述べた。
教会を「指導、支援」するための新組織として、アフリカと南アメリカの指導者が新しい『首座主教評議会』を設立するというエルサレム会議の決定に、ウィリアムズ氏は「どんな権威で、首座主教は新評議会の新メンバーを受け入れるか否か判断するのか」として「共同体の首座の中から自選した集団でのみ構成される『首座主教評議会』は共同体全体の中で正統性に関するテストに合格しないだろう」と言う。
エルサレム会議は、聖公会共同体との完全離脱を発表するまでには至らなかった。南半球首座のグレッグ・ベナブルス大主教などGAFCON指導者の中には、今年のランベス会議への出席を確認した人もいる。ランベス会議は、カンタベリー大主教の招きにより10年に一度7月に英国で開催されるもの。
ただエルサレム会議に参加した291人の主教の多くは、米国教会指導者が出席することを理由に、ランベス会議をボイコットすると言う。同会議には、ロビンソン主教自身は招待されていない。
ウガンダ聖公会のヘンリー・オロンビ大主教は、米国の問題を取り上げることになるのだから、ウィリアムス氏が米国の主教をランベス会議に招くべきではなかった、とENI通信に語った。
「彼は一家の父のようなものだ。子どもが悪いことをしているのに、何もしなかったら、家族は何と言うだろうか」と、オロンビ氏は、ウィリアムス氏を「個人的な友人」としながらも、カンタベリー大主教として何らかの明確な、ただ痛みを伴う決断をしなければならないと語った。「彼は信心深く、素晴らしく、謙虚な人だ。だれも傷つけたくないのだ」と言う。
ウィリアムス氏が教皇と異なり「同格の中の第一人者」だとして、オロンビ氏は、カンタベリー大主教に自動的に従う義務は他の教会にないと言う。
エルサレム会議の組織者は、「英国国教会派であるか否かに関し、カンタベリー大主教が唯一の判断者でないという『植民地時代後』の現実の中に、英国国教会派の動きの多くがあることを」宣言が示している、と述べた。しかしウイリアムス氏は、「『植民地主義』という言葉は乱用されている。だれ一人植民地の遺産へ無頓着に立ち返るものはいない。しかし、植民地主義の遺産から出て来るものは、単なる権力の反転ではなく、新しい平等な協力なのだ」と、声明で指摘している。
◎英国国教会の保守派主教がバチカンと極秘会談
【CJC=東京】英国国教会(聖公会)で指導的な立場にある主教が、同性愛司祭と女性主教問題で聖公会共同体が分裂の危機にさらされていることをめぐってバチカン(ローマ教皇庁)当局者と極秘に会談した、と英紙『サンデー・テレグラフ』が報じた。
会談のニュースは、7月7日の英国国教会総会で、女性主教に反対する教区や聖職者の処遇に関し態度決定が行なわれる直前に伝えられた。カンタベリー大主教も同紙報道で初めて会談について知った模様で、英国国教会は会談について確認したり否定することはしないと見られる。
英国国教会の報道担当は「総会前にインターネットや新聞で行われたお話の一つに過ぎない。この問題は結局は総会でしか決められない」と語った。
保守派主教グループは、英国国教会の自由主義的な指向に失望し、その将来に懸念を抱いていると言う。バチカンで行われた教理省関係者との会談がローマ・カトリック教会と、より密接な結びつきを築こうとする試みの一部と『サンデー・テレグラフ』は報じた。ただ主教の名前を同紙は把握しているものの、情報提供が匿名を条件に行われたとして、紙面では報じていない。
女性主教に反対する教区に対し何らかの配慮がなされない限り、英国国教会を離脱する用意がある、とカンタベリー大主教に書簡を送った聖職者は600人に上っている。
◎米長老教会総会、同性愛者の聖職叙任に道
【CJC=東京】米長老教会(PCUSA)は第218回総会を6月21〜28日にカリフォルニア州サンノゼで開催した。
総会議長には「緊急教会」運動の指導者ブルース・レイエス=チョウ牧師(39、サンフランシスコ)が2回目の投票で選出された。副議長にはバイロン・ウェイド牧師(45、ノースカロライナ州ローリー)が選任された。
引退するクリフトン・カークパトリック書記の後任に、総会は4人の候補者の中からグラディ・パースンズ副書記を最初の投票で選出した。
総会で取り上げられた1000近くの議題の中で、同性愛者の聖職叙任、中東和平、人種差別など注目される決定が行われたことを、同派のプレスビテリアン通信によってまとめた。
教会役員に「男女間の結婚誓約に誠実であるか、単身者として貞潔」を求めている条項を規則から削除する修正案を中会に送ることを総会は380票対325票で決定した。その代わりに、役員候補者が教憲における叙任の誓約に同意することを求めることを提案している。
一方で総会は、教憲における結婚の定義を「男性と女性」から「2人」に変更するとの提案を540票対161票で否決した。
中東問題では、イラクで平和を求めているすべての人々の努力を確認したものの、米軍の即時撤退要求までには至らなかった。ただイランへの先制攻撃には反対を決議した。
総会は547票対149票で、キリスト者、ユダヤ教徒、イスラム教徒の間に寛容と平和な関係を求める声明を承認した。総会は、「人類に神がどのように啓示されたか」について3宗教が異なった理解を持っていることを認めつつも、神と隣人への愛と貧困者への配慮について関わりを共有している、と指摘した。
総会は、ハイデルベルグ信仰問答を現行訳から1562年のドイツ語原文に沿ったものに修正することを436票対280票で採択した。同派は1962年、信仰問答第87の回答に「性的倒錯」という表現を挿入、67年にはそのまま『諸告白書』に収録された。この修正に同調した教派はない。
また『諸告白書』に1986年南アのオランダ改革派ミッション教会が起草したアパルトヘイト(人種隔離政策)など人種差別の罪に言及したベルハル告白を収録する過程に着手することを536票対154票で採択した。
総会は「21世紀の社会信条」を、552票対110票で採択した。あたかも20世紀を迎え産業時代の厳しさに言及した1908年の「社会信条」からまさに100年後の採択となった。
現在、各派で検討されている新信条は、報酬の平等、就業に際しての健康と安全強化、正義の回復による犯罪者の更生、死刑廃止、貧富格差を減少させる税制や財政、住宅供給、資源の持続可能な利用、正統な移民政策などを訴えている。
総会は「私の人たちを慰めなさい=深刻な心の病に関する方策声明」を採択した。声明は、長老派が、心の病の問題について教育と支援を強化し、深刻な心の病を持つ人たちとその家族をもっと受け止めるように働くこと、教会と世界に見られる、深刻な心の病に対する恥ずべき差別を終わらせるように求めている。
デトロイト中会の招請に応え、2014年の総会を同地で開催することとした。10年はミネアポリス、12年はピッツバーグでの開催が決まっている。
◎米長老教会の同性愛者聖職叙任、各中会へ
【ニューヨーク=ENI・CJC】(クリス・ハーリンガー記)米長老教会(PCUSA、信徒220万人)は6月21〜28日にカリフォルニア州サンノゼで開催した総会で27日、公然同性愛者を聖職に任命する道を開く教憲改定案を380票対325票で採択した。ただ今後、各「中会」がこの改定を批准する必要があり、反対の勢いが強まる可能性もある。
これまで1997年と2001年にも「任命規則」変更の動きがあったが、いずれも成立しなかった。PCUSA内部の対立は、同様に議論が進んでいる米聖公会(英国国教会)ほどには激化しておらず、総会開催時にも反対派は教会を傷つけるつもりはない、と語っている。
プレスビテリアン通信(PNS)によると、トロピカル・フロリダ中会のウイリアム・ステップ牧師は「教会を衝撃波にさらすな」と語った。PCUSAが「性に関する聖書の規準を力強く証し続けるべきだ」と言う。
太平洋中会のスーザン・フィッシャー牧師は、米国の長老派は任命問題について30年にもわたって討論して来たとして、「教会に声を与え、言葉を変えるために投票」する時だ、と語った。
現行の規則では、聖職に任命された人は、「男女間の結婚誓約に忠実であるか、単身者として貞潔」であることを期待されている。新しい言葉では、性的忠誠に関する表現を削除することで、より多くの裁量余地を叙任に与える。
言葉遣いは、「叙任と任命に関する教憲の定めに同意することで、教会で叙任された務めに召された人は、教会の頭であるイエス・キリストに従っていきることを誓約する」ということになる。
◎ルーテル世界連盟のイシュマエル・ノコ総幹事が引退へ
【アルーシャ(タンザニア)=ENI・CJC】ルーテル世界連盟(LWF、信徒総数6800万人)総幹事のイシュマエル・ノコ氏は、アルーシャで6月25〜30日に開かれたLWF常議員会の席上、2010年10月末に引退すると発表した。
「LWFがアフリカで会合している時、それも南半球から選出された最初の議長であるジョシア・キビラ総幹事の出身地であるタンザニアで常議員会が開催されている時にこの発表を行うことは名誉と特権だ」と言う。
ノコ氏は、ジンバブエ福音ルーテル教会牧師。1994年にLWF総幹事に選出、2004年に再選された。引退する2010年10月31日は、ドイツの神学者マルチン・ルターが1517年にウィッテンブルグ城の教会の扉に95箇条の提題を貼り付けた記念日。
◎ハンセン病患者に生涯を捧げたダミアン神父、列聖に近づく
【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世は、カステルガンドルフォで7月3日、教皇庁列聖省長官ホセ・サライヴァ・マルティンス枢機卿会見、列聖・列福審査対象14件における奇跡または殉教、英雄的徳を認める教令を承認した。バチカン放送(日本語電子版)が報じた。
これにより、19世紀末ハワイのモロカイ島でハンセン病患者たちのために生涯を捧げた福者ダミアン・ヨセフ・デ・ブーステル神父の列聖が近づいた。
《メディア展望》
=カトリック新聞(7月6日)=https://www.cwjpn.com
★第49回国際聖体大会=5万5千人 生き生きと=「永遠のいのち」祝う=カナダ・ケベック
★高松教区=神学院と「道」の行方 (上)=教区の司祭ら 「閉鎖中断」に驚き隠せず
★高校生が発案=世界に広がる信徒運動=聖エジディオ共同体創立40周年
★米委員会の世界難民政策調査=欧州に厳しい評価
★建て替えたのは"共同体"=全員で思案「教会の役割って?」=10年の取り組み=神奈川・菊名教会
=キリスト新聞(7月5日)=https://www.kirishin.com
★G8サミット="責任ある行動を"=カトリック司教協議会が共同声明
★開かれた療養所へ一歩=ハンセン病問題基本法成立
★キリスト教=1世紀以内に消滅?=英国人に「AISH」調査
★青山学院初等部=鴨下環境相が小学生に授業=「いまできることを」
★NHK「慰安婦」番組改変訴訟=最高裁判決=「政治介入」判断示さず
=クリスチャン新聞(7月6日)=https://jpnews.org
★クリスチャントゥデイ=異端疑惑追及の牧師を提訴=「名誉毀損」と謝罪など要求
★伝統芸能で神を讃える=能囃子と賛美舞踊=大阪・堺
★英国人を対象に調査=「キリスト教は1世紀以内に消滅」
★第17回ホーリネス弾圧記念聖会=神学校の戦責問題にも言及=日基教団巡回教師関田寛雄氏講演
★「再臨主」疑惑の創始者張在亨氏をクリスチャントゥデイ社長が擁護=本紙への説明と矛盾
=リバイバル新聞(7月6日)=https://www.revival.co.jp
★牧師夫人に癒しと励まし=超教派でリフレッシュセミナー開催
★クリスチャントゥデイ問題=日基教団が声明を発表
★アジアンアクセス=新総裁にジョセフ・W・ハンドレー氏が決定
★日本フォースクエア福音教団総会=新総理には佐藤成紀氏
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