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CISMOR公開講演会「イラン・イスラム共和体制とは?」

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 11月24日、駒野欽一氏(前駐イラン日本大使)を講師としてお招きし、CISMOR公開講演会「イラン・イスラム共和体制とは?」を開催しました。
 駒野氏は10月まで駐イラン日本大使を務めておられました。長年のイランとの関わり、そこでの経験から、イランについて非常にわかりやすい話をしてくださいました。以下に私のメモをつけておきます。

駒野欽一(前駐イラン日本大使)「イラン・イスラム共和体制とは?」

はじめに
 イランに対しては「変な国」という印象を持っている人が多いのではないか。実際、イランはとてもユニークな国であることを、3度の勤務の経験を通じて感じてきた。この数十年の間にイランは様変わりしてきた。テヘランは交通渋滞がひどく、都市化が急速に進んでいる。
 イランはどこに向かっているのかを示したい。

1.イラン・イスラム共和国の権力構造
 革命(1979年)が成功してから3分の1世紀がたった。当時は、この体制は長続きしないのではないかという意見も多かった。しかし、イスラム共和体制は安定した構造を持っていると言える。
 同じイスラム共和体制であっても、イランとパキスタンとではかなり異なる。イランの場合には、ホメイニ師の思想の影響が大きい。また1979年の米国大使人質事件や、イラン・イラク戦争(1980-88年)の影響もある。こうした危機に対応する中で、イランのイスラム共和体制ができあがってきた。
 イスラム共和体制を構成しているものを順に取りあげていきたい。

(1)宗教界
 ホメイニ師の影響力は圧倒的である。彼は統治に関しての明確な考えを持っていた。彼は1989年に亡くなったが、その後も彼の思想は基本的な影響力を失っていない。
 三権分立はあるが、イランでは司法権が大きな力を持っている。検察・裁判システムも司法権の管轄下にある。司法権は最高指導者(ハメネイ師)が握っているが、体制の護持を最大の目的としている。

(2)革命ガード
 革命後の混乱期にイラクに攻撃された。イランを支援したのはシリアなど、ごく一部の国だけであった。革命ガードがイラクとの戦いの中心を担った。背後では、革命聖戦隊が支えた。革命ガードは現政権を軍事面・政治面で支える。革命ガードは最高指導者のもとにある。

(3)政府
 アフマディネジャド大統領が過去7年間政府を主導し、来年、彼は大統領を退く。過去7年間、石油価格が高騰した。政府は、それによって得られた資金を使う権限を持っている。
 今、イランで深刻な問題となっているのは失業問題。政府がこの問題に対処する権限を持つ。また政府は政策策定する権限を持っている。
 イランでも政府の権限を小さくしようとする動きはあるが、実際にはそれと反対の方向に進んでいる。大統領の権限は大きい。ラフサンジャーニは建設を指導した。ハタミ大統領は社会的な自由を主導。アフマディネジャド大統領は公正経済に力点を置こうとしたが、巨大な石油収入に依存し、彼のばらまき政策が経済を混乱させる一因となった。

(4)国民とは
 国民は必ずしも西側志向ではない。最高指導者のアピールに応えようとする人々も少なくない。いざという時には国のために戦うための訓練を受ける(バシージ)。100万人単位の人々がバシージに関わっている。
 最高指導者は毎週のように国民に対するスピーチを行っている。アメリカは現体制に対し批判的なイラン人に対するアピールを続けている。

2.イラン・イスラム共和国体制下での考え方
(1)独特の世界観
 彼等の世界観によれば、西側世界は、経済的にも道徳的にも衰退する一方である。西側は統治能力すら失っている。それに対し、イランはイスラムを中心に置きながら、革命の理念を追求し、努力してきた。
 イランは産業・科学における発展を誇る。人工衛星・生命科学・核開発など。これらはイランの大発展のシンボルとして機能している。イランの発展は上昇の一途であるという自己理解を持っている。
 西側世界は衰退しつつあるので、ありとあらゆる方法でイランに対して攻撃をしかけてくる。現在の攻撃の形は経済制裁によるもの。
 こうした世界観を有しているため、イランと西側世界との融和は簡単ではない。

(2)宗教観
 シーア派をリードする国がイラン。
 井筒俊彦の著作は参考になる。スンナ派ではシャリーア(イスラム法)がそのまま宗教となる。しかし、シーア派は内面(精神面)をより重視する。井筒の言葉に従えば、スンナ派を「顕教」、シーア派を「密教」と見なすことができる。
 シーア派の特徴を次のようにまとめることができる。神と人間との直接的な関わりを求める。アリにつながる12人を指導者(イマーム)としてあおぐ。12イマーム派と呼ぶ。シーア派は隠れたイマームが再び姿を現すことを願っている。
 昨年5月にある事件が起こった。大統領の周辺の人々がお隠れイマームの再誕が近いとの主張をした。宗教界はこれに対して激怒し、該当者たちを政治活動ができないようにした。この事件を、イラン人の宗教観を表すものとしてだけでなく、権力闘争の一側面として理解することができる。

(3)アイデンティティの問題
 民族主義は強い。イラン民族主義とイスラーム主義をどのように調和できるのかという問いが絶えずある。実際、両者はしばしば対立する。

3.以上のような社会で何が起こるか
(1)権力闘争終焉せず
 宗教観、アイデンティティ、世界観において分裂がある。大統領の権限が非常に大きいので、それを目指した権力闘争が起こることも避けがたい。

(2)体制護持のバネ
 過去、改革派が力を増してきたが、選挙で負けて、大きなデモが起こった。改革派の指導者が大きな国民的支持を受けたことは、最高指導者にとってもショックなことであったに違いない。しかし、その後、改革派は完全に押さえ込まれていった。しかし、共通の敵がいなくなると、同じ保守原則派の間で権力闘争が始まった。とはいえ、宗教界が大きな力を持っているので、体制護持は守られていくと思われる。

(3)体制護持のための柔軟性
 体制を守るためには、原理原則を曲げる必要もある。ホメイニ師は、イラン・イラク戦争の元凶であるサダム・フセインを倒さなければならないと考えたが、実際には体制の危機を目の当たりにして、停戦を受け入れることになった。

(4)経済制裁への対応
 今後の状況次第では、核開発の計画変更もありうる。

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