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CISMOR公開シンポジウム「一神教と国際政治──米大統領選挙を中心に」

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 7月22日、同志社大学 今出川キャンパスで、一神教学際研究センター(CISMOR)公開シンポジウム「一神教と国際政治──米大統領選挙を中心に」を開催しました。日曜日であったにもかかわらず、会場一杯の来場者がありました。
 配役は以下の通り。

【講師】
渡辺将人(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)
 「米大統領選挙と宗教要因」
宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
 「アメリカの中東政策」
【ディスカッサント】
伊奈久喜(日経新聞特別編集委員)
小原克博(CISMORセンター長)
【モデレーター】
村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

 非常に大ざっぱではありますが、講師の話の論点を以下に列挙しておきます。

■渡辺将人「米大統領選挙と宗教要因」

宗教要因とは何か?
・宗教争点の定義は解釈にも影響される
・生命倫理の争点
・社会正義の争点:貧困、戦闘での犠牲

宗教的スィング・ボーター
・カトリック教徒
・2004年、ブッシュを指示したカトリックとケリーを指示したカトリックに分かれる。

オバマの医療保険改革法
・合憲と認められた。これは「政府の大きさ」をめぐる問題
・オバマは医療保険改革は命の問題、道徳問題であるというキャンペーンを展開。

2012年大統領選挙
・経済中心の選挙となる。しかし、信仰問題に展開する可能性もある。
・医療保険の改革。避妊問題にも波及。

ティーパーティ
・大きな政府の政策に対し、全面的に反発。宗教右派も流入してくる。
・宗教右派とティーパーティーのオーバーラップは明らか。

ミット・ロムニー
・モルモン教徒
・フランスでの布教活動後、スタンフォードを辞めてブリガムヤング大学へ。
・「家族の価値」の強調
・プロライフ。同性婚反対。

オバマの信仰
・オバマをムスリムだと思っているアメリカ人はいまだに多い。
・学世時代は宗教に対する関心は見られない。
・シカゴ時代、ライト牧師との出会い。Trinity United Chruch of Christ に出席。

ジム・ウォーリスのオバマへの影響
・宗教左派による対抗運動(宗教右派に対して)。
・「宗教左派」は選挙用語。教派的区分とは関係ない。

オバマとカトリックの対立
・カトリック系の病院は避妊を医療保険でカバーしなくてもよいと考えている。宗教の自由を主張。
・オバマ政権は貧困層の救済を考えている。

カトリック:ヒスパニック系の影響増大

ロムニーの課題
・「初の女性大統領」「初の黒人大統領」とは異なり、「初のモルモン教大統領」に人々は熱狂しない。


■宮家邦彦「アメリカの中東政策──キャンプデービッド体制の劣化と湾岸の真空状態」

欧米キリスト教と中東イスラーム
・英仏の時代(1910ー1960年代):人・物資の自由な流れを維持
・米国の関与開始(1970年代以降)
・米軍の湾岸プレゼンス開始(1991年以降)

ブッシュ政権の中東政策
・理想主義が出てくる:ネオコン主導の「中東の民主化」願望。

ユダヤ・ロビー
・登録されているロビーストは少ない。しかし、影響力を行使できるネットワークを持っている。
・アラブ・アメリカンもユダヤ人と同じくらいの歴史を持っているはずであるが、ワシントンでの影響力はほとんどない。

米中東政策の基本は現状維持
・シリアの誤算:エジプト政変で米・サウジは現状変更へ
・イスラエルがなくても米国は湾岸地域を守る。

イスラエルはいつかイランを攻撃する
・ホロコーストの経験を忘れることはできない。

2025年までに何が起こるのか
・米国は同時に二つの戦争を戦えない。
・米海軍という「公共財」を誰が活用するのか。
・米撤退後、中東に「力の空白」が生じる。
・中東と東アジアで同時に危機が進行した場合、米軍は中東に行く。その場合、日本はどのように自国の安全保障を考えることができるのか。


 アメリカ大統領選挙とアメリカの中東政策というかなり異なったテーマを、無理矢理「一神教と国際政治」という枠組みに押し込めたような設定だったのですが、講師もその他の登壇者も論客揃いであったため、うまくかみ合った、非常に濃密な議論を交わすことができました。フロアーからも多数質問が寄せられましたが、それぞれの講師は限られた時間の中で、うまく答えてくださったと思います。

 公開シンポジウムの後、会場を変えて、クローズドな研究会を行いました。専門家同士のやり取りなので、さらにおもしろい議論となりました。
 CISMORの共同研究員は、NHK、日経、読売、朝日などジャーナリズム関係の方を多数含んでいますので、時事問題に関しては、非常にフレッシュかつ詳細な情報のやり取りができるという醍醐味があります。
 今回の研究会には、わざわざこの日に合わせて、カイロから一時帰国されている朝日新聞社 ・中東アフリカ総局長の石合さんが参加してくださいました。ありがたい限りです。エジプトの現状をうかがうことができました。

 研究会よりさらに盛り上がるのが、やはり、懇親会。これが楽しくて、みなさん遠方からわざわざ来てくださっているのではないかと思うくらいです。知の共同体を活性化するためには「潤滑油」が大切ですね。

 金曜日は宗教倫理学会の研究会、土曜日は京都・宗教系大学院連合の院生発表会、日曜日はCISMORの行事と続きましたので、さすがに疲れました。先週同様、土曜日も日曜日もなく、ひたすら走り続けている日々が続いていますので、少し骨休めしたいところです。ちなみに、月曜日は1時間目から授業でした(泣)。

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