KOHARA BLOG

KOHARA BLOG

コルモス基調講演1:井上順孝「宗教文化教育の現状と課題」

 井上順孝先生(國學院大學教授)による「宗教文化教育の現状と課題」のメモを以下につけておきます。来年から始まる新しい資格制度「宗教文化士」ができるまでの歴史や背景、課題について話して折られます。

はじめに
 20年ほど前から、宗教は学校でどのように教えられているのかという関心が大きくなってきた。

1.宗教教育に関する研究・調査の経緯
 学校(宗教系学校)における実態の調査。国外にも出かけたが、幅が広すぎるので、調査は韓国を中心にした。

学生が信仰をもっている割合
 非宗教系の大学の割合は6パーセントで安定していたが、2008年から7パーセントを超え、微増傾向にあることがわかる。2010年では7.4パーセント。
 宗教への関心は、今年、過半数を超えた。
 仏壇・神棚をもっている家の数はかなり減少している。神棚の場合、10年近くで10パーセント程度減っている。

2.二期12年間(1990-2001年度)の研究と転機としてのオウム真理教事件
オウム事件以降、宗教教育への関心が高まった。
1)しだいに明らかになったこと
 宗教を肯定的に見ていない。初詣などは宗教行為としては考えられていない。宗教は教団を持っていて、特定の考えを押しつけてくる存在と考えられている。宗教という言葉が出たとたんに警戒心が高まる。就職活動でも問題とされる場合がある。この現実を無視して、理念的に宗教はすばらしい、といっても問題は解決しない。
 宗教系の学校では、自分たちの宗教以外の宗教の教育法は確立していない。理由としては、教えたくない、教えることができないということがある。キリスト教系の学校では、キリスト教以外のことはほとんど知らない。仏教と神道の違いすらわからない。
 情操教育の場合、教師の影響力が大きい。どれほどよいことをやっていても、教師の人格に問題があれば、教育は逆効果をもたらす。この点では、宗教教育ほど慎重を要するものはないと言える。
 戦前の経緯を無視することはできない。押しつけの情操教育になることへの警戒は強い。
 時代を認識することの必要性。現代の若者がどのようにして大量の情報を整理しているのかを、我々はもはや想像することができない。しかし、プレ情報時代に生きた我々の整理の仕方がまったく役立たないわけではない。

2)オウム真理教事件の影響
 現代の若者は、すでにオウム事件に対するリアリティはない。当時なくなった霊能力者番組、超能力番組は復活し、90年代初頭とほとんど変わらない状況になっている。
 宗教家にとっての宗教のイメージと、一般の人が持つ宗教のイメージの間には大きな落差がある。このことを認識することはきわめて重要。
 教育基本法改正(2006年)にからめた宗教教育論。「宗教に関する一般的な教養」を尊重という文言が追加。変更の是非論はあるが、この改正を宗教関係者はポジティブに利用すべきではないか。

3.宗教文化教育という発想
 宗教教育の分類:宗派教育、宗教情操教育、宗教の知識教育
 特定の宗教を前提にしない「宗教情操教育」は可能か? 生命の尊厳、自然への畏敬等々を中心に立てようとする考えもあるが、あいまい過ぎる。命の境界線を一般的に整理することは難しい。
 「宗教知識教育」という言い方は、受験科目のような響きがある。
 「宗教文化教育」は宗教情操教育も一部取り入れながら、宗教知識教育をベースにする。伝統的宗教文化と異文化宗教の両方を理解する。こうすることによって、一般からの宗教に対する警戒心を和らげることができるのではないか。
アンケート調査で、「宗教」を教える、に対して「世界の宗教」を教える、という言い方を変えると肯定的意見が大きくなった。「日本や世界の宗教文化」とするとさらに肯定意見が増えた。反対に、宗教系学校では「日本や世界の宗教文化」に対する肯定意見が少ない。
 情報時代の宗教教育の困難さ。家庭、学校、地域社会の影響力の低下。マスメディア、インターネットの影響力の増大。
 教員個々の努力の限界。個々の発言をスマートフォンですぐにチェックできるような状況が教室にある。
 教員のネットワークをつくる必要がある。研究に関してはネットワークがあるが、教育に関してはまだ十分ではない。これを「宗教文化教育」を通じて、システム化しようと考えた。
 社会の情報化が進んでいる中で、教員は今のままでよいのだろうか。
 グローバル化の影響。モスク建設(日本各地に60ほどある)。ムハンマド風刺画問題、ホロコースト風刺画(イラン)などが起こったが、こうした問題を未然に防ぐためにも避けるために「宗教」を考える素材を増やす必要がある。金曜日の集団礼拝という基本的知識を知っているかどうかだけで、対応が大きく異なってくる。
 宗教を考える素材として映画、世界遺産、漫画、動画を活用することができる。

月別の記事一覧