韓国からの訪問 & CISMOR講演会
2月14日午前中、韓国の長老会神学大学の先生、学生たち総勢19名が、同志社大学神学部を訪問してくださいました。
長崎で隠れキリシタン関係の場所を見て回り、その後、福岡、大阪、京都へと来られました。長老会神学大学を卒業した学生が、同志社で学ばれたりしていますので、名前は知っていましたが、正式な訪問は今回がはじめてとなります。
神学館礼拝堂を案内した後、別の部屋で、日本のキリスト教史に関して原先生から話を聞き、その後、ディスカッションをしました。
長崎訪問のあとということもあって、遠藤周作の『沈黙』をめぐる質問もありました。ちなみに、『沈黙』は、来年、マーティン・スコセッシによって映画化される予定です(→関連記事)。
昼食後、一同でキャンパス内にある尹東柱の詩碑を訪ね、記念撮影をしました。
その後、駆け足で、午後1時から始まるCISMORの講演会に向かいました。
「最近のコーカサス情勢―政治変動、民族紛争、宗教、グルジア紛争の影響などを中心に」
というテーマで、廣瀬陽子先生(静岡県立大学国際関係学部准教授)に講演していただきました。コーカサスに関する知識が十分でないだけに、多くのことを学びましたが、やはり想像以上に複雑な地域だなという印象を持ちました。
昨日に引き続き、まじめにメモをとりましたので、関心ある方はご覧ください。
■CISMOR公開講演会(2009年2月14日、神学館礼拝堂)
「最近のコーカサス情勢―政治変動、民族紛争、宗教、グルジア紛争の影響などを中心に」
廣瀬陽子(静岡県立大学国際関係学部准教授)
1.コーカサスの概観
文明・東西の要衝としての意義を持つ。
9.11以降、アメリカの中東政策が強化されたが、コーカサスなど中東の周辺地域への関心が高まってきた。
天然資源の存在:ヨーロッパがエネルギー資源の多角化を目指す上で、EUはコーカサスに注目している。
■言語:印欧系語族、アルタイ語系語族、コーカサス語系語族
国境と語族がずれている。語族のまとまりが国境によって分断されている。ずれている地域で紛争が起きやすい傾向がある。
ロシア語が共通語になっていたので、民族間の対話は可能であった。ソ連解体後は、ロシア語が排斥される傾向にある。これが民族間の対話が難しくなる一因となっている。
■宗教:イスラーム、アルメニア教会、グルジア正教、等
ロシア時代、宗教は基本的に弾圧されていたが、イスラームは例外であった。イスラームを弾圧すると周辺からの混乱をもたらす危険性があるため。「ムスリム宗務局」によってムスリムを管理している。
アゼルバイジャンは最初キリスト教であったが、後にイスラームに改宗した。
全般的に言えば、コーカサスの紛争に宗教の違いはあまり関与していない。ハンチントン流の文明の衝突論では説明できない。
■石油
アゼルバイジャン:「火の国」という意味。19世紀には世界の半分の石油を生産していた。ソ連解体後は、欧米企業がバクーに集まり、海底油田の開発も進む。
イランを通すパイプラインの計画はアメリカによって反対されるので実現しない。
カスピ海の法的地位の問題:湖と考えると、海と考えるかによって領海の区分が異なってくる。イランは湖と考え、共同管理を主張。イランの地域には天然資源がないので、資源を共有したいという意図があるのではないか。
■親欧米と親ロシア
GUAM諸国:反ロシア。ただし、アゼルバイジャンはロシアと協力的な関係を維持しようとしている。グルジア紛争後は、モルドヴァはGUAM脱退をにおわせている。
四面楚歌となっているアルメニアはロシアに依存するしかない状況にある。
グルジア、キルギス、ウクライナでは民主化革命が起こる。ロシアはアメリカの支援があるとして警戒している。
NATO加盟問題は、グルジア紛争にも関係している。
2.コーカサスの複雑な紛争の構図
紛争が内政に利用されたり、ロシアの外交に利用されたりして、簡単に問題解決に至らない。
3.2008年の選挙
2008年には、コーカサス4カ国すべてで大統領選挙が行われた。アルメニアの選挙では、警察による非人道的な手法が用いられたことで国際的にも批判を受けている。
グルジアでは抗議運動が拡大したため、大統領選挙を前倒しした。グルジア紛争の背景には、強いロシアを内外に示す必要があった。グルジアでは、ロシアに対する敵対心をあおれば、国民をまとめ政権に有利になると考えたのではないか。
4.グルジア紛争の発生の背景
国家と未承認国家:アブハジア、南オセアチアは民族自決を主張。
国家:グルジア vs ロシア
地域:反ロシア的な動きへの牽制
国際:ロシア vs 欧米 NATOの拡大が緊張の背景にある。
5.グルジア紛争のマイナスの影響
石油プロジェクトに関して、アゼルバイジャンが大きな打撃を受ける。
政治的ダメージ:最初、国民は反ロシアで一致したが、のちに、大統領の戦争責任が問われるようになった。NATO加盟は遠のいた。内政不安状況は続いている。グルジアが最初に侵攻したことがわかってから、国際的な批判も受ける。
6.グルジア紛争のプラスの影響
地域全体の平和構築。
サルコジの介入をロシアは歓迎しなかった。
ナゴルノ・カラバフ紛争での新展開
イランは欧米主導の和平に対して批判的。新しい動きはあるが、解決の道のりは遠い。
グルジア和平における宗教への期待
ロシアとグルジアは正教という点で共通点を持つ。グルジア紛争の勃発時、正教内の分裂も懸念された。グルジアは正教を通じて、ロシアとの関係改善を求めようとしている部分もある。
7.求められるバランス外交
新欧米か親ロシアの間で微妙なバランスを維持していく必要がある。