CISMOR講演会「2008年アメリカ大統領選挙と宗教勢力」
1月31日、CISMOR講演会「2008年アメリカ大統領選挙と宗教勢力」が行われました。
旬なテーマであったためか、小雨が降る天候であったにもかかわらず、200名以上の参加者がありました。
今回は、なんとまじめなことに、講演会場にMacBook Airを持ち込んでメモを取りましたので、それをつけておきたいと思います。
あくまでもメモ的な記述なので、わかりにくい箇所もあるかもしれませんが、講演の要点はお伝えできると思います。
■2008年アメリカ大統領選挙における宗教
久保文明(東京大学大学院教授)
今回の選挙では、イラク問題は後退し、経済問題が前面に出た。2004年はmoral issues が大きかった。今回はそれほど大きな話題とならなかったが、問題としては残っている。
二大政党制:共和党はWASPからの指示を強く受けている。民主党は、WASP以外からの支持を得ることが多い。
もう一つの大きな対立軸が、宗教である。
神を信じる割合:日本と比べアメリカは圧倒的に高い。アメリカは工業化が高度に進展したにもかかわらず、宗教的特性が強い。
現代アメリカの宗教の対立軸はかつての「プロテスタントvsカトリック」ではない。教会へのコミットする割合は、政治的傾向にも結びつく。熱心な信者は共和党シンパとなる傾向が強い。
Election Results 2008 (New York Times)
[Sex] 男性の場合、両者は拮抗している。女性は民主党が圧倒的。男女平等憲法修正案(ERA=Equal Rights Amendment)や人工妊娠中絶が、女性票の多さに反映していると思われる。
[Race & Ethnicity] 白人の多くは共和党支持。黒人は民主党。白人の中では、民主党は絶対に勝てない。ヒスパニックは民主党寄り。
[Age] 若年層の多くが民主党に入れている。66:32オバマ勝因の一つとなっている。高齢者では共和党が優位。
[Religion] White Protestantの圧倒的多くは共和党支持。最近では、White Catholicは共和党支持が多くなっている。Born againでも共和党が強い。
若者の動向:18-31歳、White Evangelicalsのグループの中で、オバマは善戦している。16パーセント(ケリー)から32パーセント(オバマ)へ。宗教票における民主党の圧倒的劣勢を今回はかなり挽回した。
ケネディーが立候補した1960年代では、宗教票は確立していなかった。カトリックの圧倒的多数がケネディー。2004年、ケリー(カトリック)はカトリックの過半数の票を取ることができなかった。ケリーは人工妊娠中絶に反対するプロ・チョイス派。これがカトリック票を離れさせた。
かつて共和党は北部を中心とした穏健な政党であった。
男女の平等をうたったERAが拒絶された。もともと共和党はERAに賛成の立場であったが、1960年代以降、反対の立場をとるようになる。
2004年のブッシュ勝利の要因として宗教票が引き合いに出されてきたが、過度に強調されている嫌いがある。宗教保守との関係はプラス面ばかりではない。諸刃のつるぎとしての側面がある。宗教保守層と近づきすぎると、浮動票が逃げていく。他方、民主党は世俗派のエリートというイメージができて、信仰心のある人々は民主党を離れる。共和党が低所得者層を取り込めるようになったのは、彼らの宗教性を取り込んだため。
民主党が宗教に対して軽蔑的であるというイメージを反省する民主党員が増えてきた。
95-10イニシアティブ、中絶の件数を減らしていこうという動き。これに対しては、National Association of Evangelicalsからも支持を受けている。
オバマの就任式のお祈りのときにRick Warrenを指名し、議論を引き起こす。Warrenは中絶反対、同性愛反対。同性愛者はオバマを厳しく批判。別の儀式では、Gene Robinsonを指名。
就任式の演説では、non-believerにも言及している。これはアメリカでは異例のこと。
クリントン時代に、同性愛者が軍隊にいることができるかどうかが問題となった。軍の反対にあって、クリントンは同性愛者保護を定めることができなかった。
共和党に近かった福音派の人々の中から、貧困、エイズ、環境問題など多様なアジェンダに関心を持つ人が出てきている。
宗教的な人と世俗的な人との間にある亀裂をどのようにしていくか。
宗教保守は、今後、どのようになっていくのか。かつて宗教保守は政治に関心を持たなかった。政治に関与していくという選択肢が今後変わる可能性はある。
■政治と宗教の新たな関係:変貌を遂げる福音派
中山俊宏(津田塾大学准教授)
2004年段階では、permanent Republican majorityを考えていた。宗教保守勢力をその基盤と考えていたが、その分析をいくぶん修正しなければならないことに気づく。
2008年の選挙では、宗教票は重要な役割を果たさなかった。
Barak Husein Obama:通常であれば、この名前はアメリカでは成功し得ない。
God Gapは依然と残っている。
カリフォルニア州では、同性婚を禁じる法案が通った。人種的少数者はオバマに投票したが、多くは道徳的には保守的。
Obama:United Church of Christ, McCain: Southern Baptist
オバマは一時期信仰から離れ、後に自覚的に復帰。その意味では彼もBorn againだと言える。
妥協点を見いだそうとするオバマの姿勢:中絶件数を減らすことを目指す。
マケインの場合、宗教について自然と語ることができなかった。中絶反対などははっきり言うが、宗教の問題については公の場では話さない。マケインは宗教保守層と特別な関係を持っていたわけではなかった。予備選の段階では、福音派の指導者の中でマケインを支持した人はいなかった。
マケインは副大統領候補として、サラ・ペイリンを選んだ。ペイリンを通じて、福音派を取り込もうとした。
バイデンはカトリック。カトリックはswing vote。
選挙の中で宗教はどのような役割を果たしたのか
民主党は、宗教票をかなり意識した。オバマは信仰を通じて新しいものを初出そうとしていた。
オバマが求めた正義は、不正義を糾弾するようなタイプのものではなかった。
ジェレマイア・ライト牧師との関係。オバマとは対局の分断的なメッセージを語っていた。彼の教会に通っていたオバマの言葉は本当なのか、という批判が共和党側から発せられる。
1963年、アメリカがもっとも分断していた時代に、キング牧師は和解のメッセージを語った。
共和党の分断が、民主党をハイライトする形になった。
福音派の台頭を支えてきた第一世代が退いていった。モラル・マジョリティのジェリー・ファルウェルや、テレバンジェリストのパット・ロバートソン。
オバマの信仰姿勢に対しては、福音派も違和感を感じていない。民主党候補となった時点で、オバマは福音派指導者たちと会談している。
フロリダのジェエル・ハンターを呼んで、祈りをしてもらっている。
若い世代の態度に大きな変化が見られる。第一世代の権力志向に対し、若い世代は不信感を抱く。環境問題に対する関心。若い世代は同性婚に対し比較的寛容。命に関わることではなく、ライフスタイルの問題。
NAEのリチャード・サイジックが同性婚を支持する発言をして、辞任することになった。
プロライフ:命ははじまりだけでない、と考えるようになる。より包括的なプロライフを目指す。中絶反対だけですむわけではない。貧困、エイズ等の問題への関心。
Joshua Generation Projectをオバマは立ち上げた。しかし、選挙戦の中で十分に機能したわけではなかった。キング牧師たちは、Mosesの世代と考える。
ブッシュが政権をとったとき、「思いやりのある保守主義」を考えていたが、9.11によって吹き飛んでしまった。
ブッシュのスピーチ・ライターは福音派の人物であった。彼の元に、エイズやダルフールに関する訴えが多数寄せられていた。
若い世代の価値観がより強くなっていくと、宗教と政治の関係が変わってくる。かつてのように共和党を支える、ということはなくなるのではないか。
就任式:多様な信仰のあり方があることを示した。信仰の分断を乗り越えようとする野望。福音派の新しい動きとの連携がとれれば、宗教と政治の関係は変わっていく。