今年の最後に:アニマの鳥
今年の最後に読み終えた本を紹介します。石牟礼道子の『アニマの鳥』(筑摩書房)です。528ページある大作なので、気軽に読んでくださいとは言えませんが、多くの人に一読をおすすめしたい内容です。
天草・島原の乱を描いた小説ですが、時代考証がしっかりしているだけでなく、石牟礼さんの他の作品同様、非常に細やかな人間描写が過去の出来事を彷彿とさせます。
キリシタン迫害を描いた有名な作品には遠藤周作の『沈黙』などもありますが、ある意味で、この『アニマの鳥』は『沈黙』以上の迫力を持っています。
今は読み終わったばかりなので、うまく感想をまとめることができませんが、本の帯には次のように記されていました。
三十年の歳月をかけた渾身の大河小説、天草・島原の乱。栄誉や権力に縛られず、自分の魂(アニマ)を大切に、死をかけて個人の尊厳を守った人々の受難の歴史1200枚。「個人の尊厳」という表現は非常に現代的な響きを持ち、少々違和感を感じますが、いずれにせよ、自分にとって、家族にとって、共同体にとって「尊いもの」は何か、を考えさせる作品であることには違いありません。
「あとがき」によれば、石牟礼さんが島原・天草の乱を書き記したいと願ったのは、1971年、水俣病未認定患者と友に、チッソ東京本社に籠城したときのことであった、とのこと。文字通り、30年近い歳月をかけて記した作品と言えます。
水俣訴訟との関係だけでなく、現代における様々な課題、たとえば、戦争と宗教の関係、戦争で奪われる人の命のことなどを連想しながら、ページをめくることになりました。
天草四郎は、かつて映画「魔界転生」(1981年)で沢田研二によって演じられ、わたしもこのときの印象が強く残っているのですが、この映画では、まさに魔物扱いされていました。ほんと、ひどいものです。
2003年にはリメーク版「魔界転生」も上映されていますので、最近は、こちらの方を知っている人の方が多いかもしれません。
これら映画では、天草四郎は退治されるべき魔物のように扱われており、ある意味で、当時の幕府から見たイメージに現代的な装いを与えていると言えるかもしれません。
その点、かなりの年月をかけて調査した上で執筆された『アニマの鳥』は小説であるとはいえ、天草四郎時貞の実像にかなり肉薄しているのではないかと感じさせられました。いずれにせよ、一年の最後に、ずしりとくる一冊を読み終えたという感慨が深いです。
みなさん、よいお年をお迎えください。
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