ダ・ヴィンチ・コード
遅ればせながら『ダ・ヴィンチ・コード』を読みました。
へそ曲がりなのか、世間で話題になっている本は、読まないことが多いのですが、今回、親しい人の薦めがあって、またちょっと気にはなっていたので、一気に読みました。
新聞の宣伝文句にもあったように、寝る間も惜しんで読み上げたくなるほどのアップテンポなストーリー展開でした。暗号解読ものに興味がある人にとっては、スリリングな一冊と言えるでしょう。
ちょっと辛口の批評をすると、よくも悪くも、ハリウッド映画を見ているような展開であるとも言えます。ちなみに、この作品はトム・ハンクスを主演として映画化されることが決定しているそうです。
スピーディーかつ、突然のどんでん返しに、ぐいぐい引き込まれていくことは確かですが、人物描写や心理描写は決して繊細であるとは言えません。悪は悪で、底なしのドロドロを描いてほしいと、勝手に期待してしまいますが、結構、あっさりしています。
今、石牟礼道子さんの作品を読んでいるのですが、その緻密な筆先とは比べるべくもないな~と、ふと思ったりします。まあ、ジャンルが全然違いますので、比べるのが間違っているかもしれませんが。(^_^;)
しかし、さすがに世界中でベストセラーになっただけの魅力は随所にちりばめられています。
簡単に言ってしまえば、ダ・ヴィンチをキーにした聖杯伝説(物語)となるのでしょうけれど、各所に、かなり専門的な神学、キリスト史、象徴学などの知識が出てきます。こうした部分は、一般的な読者には多少難しく映るかもしれません。三位一体論などが、さらりと出てきます。
こうした古典的なテーマを取り上げる一方で、カトリック教会の青少年に対する性的虐待、MP3プレーヤー、スマート(車)など、きわめて現代的な事象も、さらりと織り込まれています。
『ダ・ヴィンチ・コード』が素材として扱っている宗教的・歴史的知見が、学問的に正しくない、といった批判が時々なされるようですが、これは筋違いでしょう。サスペンスなんですから、あまり重箱と隅を突っつくようなことをしても意味はありません。
むしろ、大筋として、「女性的なもの」の復活にウェイトが置かれている点に、現代のキリスト教や西欧社会のトレンドの一つを見るべきでしょう。物語の中では、マグダラのマリアが重要な役割を果たしています。カトリック教会によって隠蔽されてきた、マグダラのマリアにまつわる真実を明るみに出すこと、これがこの本の中で、徐々に明らかにされていく聖杯の秘密につながっていきます。まだ読んでいない人のために、ネタばれにならないよう、このあたりで止めておきます。
余談ですが、『ダ・ヴィンチ・コード』で権力・支配欲の権化として描かれている「教会」とはカトリック教会のことです。まじめなカトリックの人が読めば腹立たしくなるかもしれません。しかし、小説に刺激的な素材提供できるほど、よきにつけ悪しきにつけ豊穣な素材を持っていることを、カトリックは誇りにしてもよいと思います。変な言い方ですが・・・ 少なくとも、シンプル・イズ・ベストを旨とするプロテスタントでは、小説ネタが少なすぎて、話にならないのですから(^_^;)
下のページは、角川書店によるダ・ヴィンチ・コードの専用ページ。フォトギャラリーが、よくできています。ルーブルなど、物語の舞台となった場所が掲載されています。この本を読んで、ルーブルにまた行きたくなりました。
■ダ・ヴィンチ・コード(角川書店)
https://www.kadokawa.co.jp/sp/200405-05/
■Amazon ダ・ヴィンチ・コード
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4047914746/katsuhirkohar-22