パネルディスカッション発表「キリスト教と世俗教育・宗教教育──宗教多元的状況に向き合うキリスト教社会の現状」、「現代における宗教の役割研究会」(コルモス)第57回研究会
1.キリスト教と教育をめぐる争点
1)キリスト教宣教における教育の役割
宣教師は西洋型の近代教育の普及に貢献したが、教育の内容は時として軋轢を引き起こした。
(事例)
・初期の同志社:役所から校内で聖書を教えることを禁じられていた。
・アメリカンボード(1810年設立)によるネストリアン・ミッション(1835年開始、中東のキリスト教化を目指す):聖書の配布はイスラームに対する敵対行為と見なされた。
2)米・公立学校における争点
・進化論論争:ファンダメンタリストとリベラル派知識人の対立。宗教と科学の対立。
・同性愛をめぐる議論(Anti-Gay Bullying):「文化戦争」の火種となる可能性。
2.(元)キリスト教社会における宗教教育の取り組み
1)イギリス
Qualifications and Curriculum Authority (QCA)による宗教教育のガイドライン
イギリスにおける六つの主要宗教、すなわち、キリスト教、仏教、ヒンズー教、イスラーム、ユダヤ教、シーク教を義務教育の間に学ぶよう指示。
2)スペイン
カトリック主導の宗教教育のプランに対する見直し
3)ドイツ
「基本法」(1949年制定)第7条第3項
「宗教に関係のない学校を除いて、公立学校においては、宗教教育は正規の科目である。宗教教育は、国の監督権に関係なく、宗教共同体の基本理念と一致して行われる。いかなる教師にも、その意思に反して、宗教教育を行う義務を負わせてはならない。」
上記「宗教共同体」は当初、カトリック教会とプロテスタント教会を意味していたが、今日では、無宗教者やムスリムも視野に入れたカリキュラム作りがなされている。
4)アメリカ
アメリカ宗教学会(AAR)による宗教教育のガイドライン(Guidelines for Teaching About Religion in K-12 Public Schools in the United States Produced by the AAR Religion in the Schools Task Force, 2010):公立学校の世界史、アメリカ史、社会、英語(英文学)、地理などの授業の中で宗教を教えるための教師向け手引き書。
1. Why Teach About Religion? 2. Religion, Education and the Constitution, 3. How to Teach About Religion, 4. Teacher Education
5)「心の教育」の位置づけ
「心の教育」は、公立学校での宗教教育とは切り離されている。宗教教育に情操教育の役割は与えられていない。