芦名定道・小原克博『キリスト教と現代――終末思想の歴史的展開』世界思想社
目 次
はじめに
第Ⅰ部 終末思想の基盤
第一章 宗教と終末思想
1 宗教とは何か
2 イデオロギーとユートピア
3 現代の宗教的状況と終末思想
第二章 聖書と終末思想
1 二十世紀聖書学のパラダイムと終末論
2 新しいイエス研究とパラダイムの転換
3 知恵の教師イエスと終末思想
4 原始キリスト教会と終末思想
第Ⅱ部 キリスト教思想史と終末思想の展開
序 終末論から見たキリスト教史
第三章 キリスト教的終末論の誕生
1 古代キリスト教と終末論の展開
2 中世キリスト教と黙示的終末論の再興
3 宗教改革とドイツ農民戦争
第四章 西欧近代と終末思想
1 イギリスにおける宗教改革
2 イギリス宗教改革と黙示的終末論
3 ニュートンと終末思想
4 新世界アメリカと終末思想
結び 西欧キリスト教と終末論の意義
1 キリスト教の新しい自己理解を求めて
2 ユートピアの神学をめざして
第Ⅲ部 「神の国」の諸相――黙示文学と知恵思想の交錯
第五章 イエスと「神の国」
1 「神の国」への問いかけ
2 知恵思想と黙示文学的終末論の間
第六章 歴史の中の「神の国」
1 アジアにおける「神の国」
2 日本における「神の国」
第Ⅳ部 終末論の未来――生態学的終末論への道
第七章 生態学的危機とキリスト教
1 生態学的危機の現状
2 エコロジーからの批判的問いかけ
第八章 新たな神学的潮流
1 終末論の多様な展開
2 黙示的終末論から生態学的終末論へ
むすび 近未来社会への終末論的着地点
第九章 時代を映し出す鏡としての終末論
1 終末論の現在形
2 終わりの認識
第十章 終末論の可能性と展望
1 運命論への挑戦
2 宗教多元社会における指針
3 多様な物語の創出
あとがき
「あとがき」より引用
本書を通読された読者は、「キリスト教と現代――終末思想の歴史的展開」という書名が、多くの意味を重層的に担わされていることに気づかれるに違いない。現代においてキリスト教は、一口に「キリスト教」と言い切ることがためらわれるほどに、実に様々な価値観を有している。もはや一元的にはとらえることのできない雑居性――もう少し、気の利いた言葉を用いるなら、多様性――が今日のキリスト教を特徴づけているとも言えるだろう。しかし、芦名氏と本書を企画し、原稿を準備していく内に、キリスト教の歴史を分節する重要な断面において、繰り返し、終末思想が立ち現れていることにあらためて気づかされていった。
一つの宗教やそれが根付いていく世界の全体的なイメージを描写することは決して容易な作業ではない。しかし、キリスト教に関して言うなら、その作業は終末思想に着目することによって、かなり的確な見通しを得られるのではないか、という思いをわれわれは強めていった。つまり、キリスト教の統一性と多様性を読み解く「鍵」を、われわれは終末思想に求めたのである。
共著者の芦名氏とは、専門領域や関心が比較的近いこともあって――さらに言えば、京都大学と同志社大学の地理的距離の近さにも助けられて――本書執筆に当たって、互いの考えを率直にぶつけ合いながら、作業を進めることができた。単著では実現できないような、そうした相互作用の成果が本書には現れていると思う。読者は、キリスト教終末論に関する従来の著作には見られないようなテーマの広がりを本書において見出されるだろう。また同時に、キリスト教という宗教の生きた現実を通じて、現代世界が抱えている課題の数々に触れることもできるだろう。
本書をこのような形で上梓するまでに、世界思想社の加藤明義氏には原稿に何度も目を通していただき、そのたびに有益な助言をいただいた。この場を借りて、お礼を申し述べたいと思う。
二〇〇一年中秋
小原 克博