世界キリスト教情報 第1179信(2013.08.26)
- 「消滅」の危機かエジプトのコプト教徒
- 50年前の「ワシントン大行進」再び
- 同性婚挙式撮影を業者は拒否出来ず、と米ニューメキシコ州最高裁
- バチカン機関紙がカトリックの改憲反対報道
- 「神のお告げ」で退位決断とベネディクト16世
- ロシアのホテルも聖書備え付け
- 《短信》
- 《メディア展望》
◎「消滅」の危機かエジプトのコプト教徒
【CJC=東京】8月14日、反キリスト者暴行の波がエジプト全土に波及、少なくとも死者5人を出し、破壊された教会も30を超える事態になった。さらに教会襲撃の波は巨大化している。2011年に民主的に選任された『ムスリム同胞団』のムハンマド・モルシ大統領が7月3日に軍によって追放されて以来、暴力行為の続発に直面しているキリスト者共同体が、恐怖に取り付かれていることは確かだ。
モルシ大統領支持者たちの狙いが、エジプトでキリスト者であることを侮辱的だとしてコプト教徒を締め出そうとしていることにあるとも見られる。
18日には、南部ミニヤの『処女マリアと僧イブラム修道院』が襲撃された。そこの教会では1600年も続けてきたミサを守れない事態にまでなった。
襲撃したのは、『ムスリム同胞団』関係者と見られている。同修道院の僧セルワネス・ロッフィは、襲撃者の1人が,壁に「殉教者のモスクに」と書き付けていた、と語っている。
コプト派キリスト者は現在、エジプト総人口の10〜12%を占めている。世界最古のキリスト教会の信徒と見なされている。
そのキリスト者がここへ来て、『ムスリム同胞団』に狙い撃ちされるのは、モルシ氏追放の黒幕と見なされているためのようだ。
カイロ近郊にある修道会フランシスコ会運営の学校が襲撃された際、暴徒は、門の十字架をはぎ取り、黒いバナーを貼り付けた。修道女は街頭を「捕虜」のように行進させられた。学校側は、イスラム教徒の生徒にキリスト教への改宗を強要した、と非難されていた。
強制改宗への非難は新しいことではない。1930年代初期にも、反宣教師行動が燃え上がった。エジプト民衆は、カトリックやプロテスタントの宣教師が生徒を改宗させようとしているのを見て激怒した。
『ムスリム同胞団』が1928年設立されるのに。強制改宗問題が一定の役割を果たしたと見られる。1920年代末から30年代初めにかけて、同胞団は団員を増やし、「キリスト教宣教師反対に立ち上がらなければならない」と人々に呼び掛けた。しかし当時は教会への暴行は認められなかった。
現在、エジプトでキリスト者であることを侮辱だとしてキリスト者を締め出そうと動きは、コプト教会に限らず、エジプトにあるプロテスタント、カトリック、ギリシャ正教の教会も対象にしている。
「戦士」たちは、2001年のアフガニスタンで古代の仏像を破壊したタリバンと似た虚無的な精神を持っているようだ。いつ時代にもある反ユダヤ宣伝のような有毒な論理が支配している。
ただ、モルシ大統領反対に動くよう軍にうながした大規模デモをコプト教徒が支持したことは確か。アブデル・ファタハ・アル=シシ将軍がモルシ排除を発表した時、傍らにいた10人以上の各界指導者の中に教皇タワドロス2世の姿もあった。しかしキリスト者は、幅広い層の反モルシ騒乱の際に決定的な存在ではなかった。
それにもかかわらずイスラム主義者は、コプト派キリスト者を一連の事態の背後で策動している、と描いている。
歴史的には、キリスト者は何世紀も前から存在していたのに、イスラム主義者は、コプト派キリスト者を敵対勢力、国を破滅させようと活動する「第五列」と描き出そうとしている。イスラム主義者にとって、進行中の「虐殺」は、短期的には市民感情を激化させ、長期的にはキリスト者の国を浄化することにつながる。
新刊『マザーランド・ロスト』(失われた母国)の著者で、自らコプト教徒でもある、米ハドソン研究所のサム・タドロスによると、今回のようなことは1321年以来だ。当時はやはり教会焼き討ちがあり、それが何世紀にもわたる激しい抑圧期の合図だった。その結果、エジプト人口の過半数を占めていたコプト派キリスト者共同体は現在の1割にまで減少したのだ。
キリスト者は、最後には、かつてエジプトにいたユダヤ人の運命を追体験することになるかもしれない。ユダヤ人はエジプトに第二次大戦直後には8万人存在していたが、今では文字通り少数だ。
『ムスリム同胞団』支配が続くとなると、コプト派キリスト者の保護に関心を示す政権は、軍を含め、まずないだろう。コプト教徒がエジプトを「脱出」するとなると、世界に与える影響は大きい。それは、キリスト教が生まれた場所から消滅することだ。
エジプトは、使徒たちが歩き回り、イエス・キリストのその母が避難した場所だった。
◎50年前の「ワシントン大行進」再び
【CJC=東京】米公民権運動指導者のマーチン・ルーサー・キング牧師が「私には夢がある」と訴えた演説から50年を迎え、ワシントンで8月24日、「大行進」が行われた。市中心部のナショナル・モールに集まった参加者は数千人に上った。
市民団体や宗教団体の指導者ら数十人が演説に立った。キング牧師の長男マーチン・ルーサー・キング3世氏(55)は、人種差別は今も残っているとして、フロリダ州で昨年起きた黒人少年射殺事件に言及した。
世論調査機関『ピュー・リサーチセンター』が全米2200人余りを対象に実施した世論調査によると、現在の人種間の関係について、白人の81%、黒人の73%が「とても良い」あるいは「まあ良い」と答え、「人種間の融和が進んだ」と認識している一方で、全体の半数近い49%は、キング牧師が夢として掲げた人種差別の無い社会の実現には「なすべきことがまだ多い」と答えている。黒人では全体の79%がそう答えている。
ワシントンでは、キング牧師が演説した日から50周年の28日にも大規模な行進が予定されている。バラク・オバマ大統領やビル・クリントン、ジミー・カーター両元大統領が演説する。
◎同性婚挙式撮影を業者は拒否出来ず、と米ニューメキシコ州最高裁
【CJC=東京】米ニューメキシコ州最高裁は判事5人全員が、同州法で認めていない同性婚であっても、キリスト者の婚姻写真業者が撮影を求められた場合は拒否出来ない、とする下級審の判決を維持した。
同州人権法は、「公共施設では、サービス提供の是非を決定する際、人種、宗教、皮膚の色、出身、祖先、性別、性的指向、性自認、配偶者との関係、心身の障害などを理由に、直接または間接的に、区別してはならない」と規定している。
リチャード・ボッソン判事は、アフリカ系アメリカ人であれ、イスラム教徒であれ、そのことを理由に撮影を拒否出来ないのと同じだ、と述べた。
◎バチカン機関紙がカトリックの改憲反対報道
【CJC=東京】日本のカトリック司教団は、憲法第9条を「守るべき宝」と呼んでおり、司教協議会の岡田武夫会長(東京大司教)は、1946年公布され、47年に制定された憲法が「日本の誇る世界の宝」だと付け加えた、とバチカン(ローマ教皇庁)機関紙『ロッセルバトレ・ロマノ』が8月24日報じた。
同紙はさらに、第二次大戦中の連合軍の軍事占領下に起草され、それまでの天皇制を自由民主主義の一種に置き換えたもので、採択以来改正されたことのない成文憲法、だとしている。
「政府は最近、この基本法の改正の可能性を支持しており、安倍晋三首相の声明によれば、憲法改正提案を認める第96条から着手する」という。
◎「神のお告げ」で退位決断とベネディクト16世
【CJC=東京】前教皇ベネディクト16世(86)の退位を決断したのは「神のお告げ」によるものだった。カトリック系通信『ZENIT』が8月21日報じた。
ベネディクト16世が、神の意思が伝わる「神秘的な体験」をした、とバチカン(ローマ教皇庁)内のマーテル・エクレシア修道院にある居室を数週間前に訪問した知人に説明したもの。ベネディクト16世は今年2月11日に突然退位を表明。600年ぶりに任期途中で退位した教皇となった。バチカン内の権力闘争や不祥事による心労が原因と推測されていた。
ベネディクト16世は、後継者フランシスコ教皇(76)のカリスマ性を見て、退位は「神のおぼしめし」だったと確信したという。
ベネディクト16世は18日、ローマ郊外カステルガンドルフォにある夏の離宮を3時間にわたり訪問した。庭園を散歩、祈りの時を持ち、またクラシックのピアノコンサートに出席した。
◎ロシアのホテルも聖書備え付け
【CJC=東京】欧米のホテルでは客室に聖書が備えられているところがほとんど。ロシアもその伝統にならおう、とモスクワの大型ホテル『イズマイロヴォ』に8月9日、詩編付き新約聖書が6000冊が引き渡された。同ホテルは総客室数2000で、今回は第1陣の引き渡しと見られる。
イタル・タス通信によると、モスクワ市観光・ホテル局とロシア正教会モスクワ教区評議会宣教委員会が寄贈した。
「聖書は実際に、欧州のホテルならどこでも置いてある。福音書は欧州文化の基盤であり、客室に置かれることは、宿泊客への敬意ともてなしの徴であり、ホテル文化のレベルを示すものだ」と宣教委員会のドミトリ・ペルシン委員長は語っている。
印刷費は『神学者グレゴリオス慈善基金』が負担した。
《短信》
〇教皇が研修旅行中の日本の中学生を接見
教皇フランシスコは8月21日、イタリア研修旅行でローマを訪れていた西武文理学園中学校(埼玉県狭山市)の教師・生徒とバチカン(ローマ教皇庁)美術館のセントダマスス内庭で接見した。ZENIT通信が報じた。
教皇は、平和は対話なしでは成立しない、と生徒たちに強調した。(CJC)
〇金正恩氏が故文鮮明氏に追悼メッセージ
北朝鮮の金正恩第1書記は8月20日、世界基督教統一神霊協会(統一教会)の創始者、文鮮明氏死去1年を9月3日に控え、朝鮮労働党幹部を通じて追悼のメッセージを文氏の関係者に伝えた。朝鮮中央通信報道として共同通信が報じた。
文氏は1991年に北朝鮮を訪問し、故金日成主席と会談した。(CJC)
〇教皇がシリアでの残虐行為に懸念示す
教皇フランシスコは8月25日、日曜日恒例の祈りの集いで、数万人の信者に「シリアの内戦に大きな痛みと懸念を持っている」と述べ、犠牲者への祈りを呼びかけた。(CJC)
〇米の人種差別撤廃はまだ道半ば、と米調査
調査機関『ピュー・リサーチ・センター』が8月1〜11日に全米の成人2231人を対象に実施した調査の結果、1963年にキング牧師が演説で描いた「人種偏見のない社会」の達成には、まだ多くの問題が残されているとの回答が全体の49%となった。(CJC)
〇米聖書協会が「BIBLE」ドメインを申請
インターネットでは必須のドメイン名。最後は「COM」とか「ORG」などで終わるものが多いが、「BIBLE」を米聖書協会が申請している。
「聖書の時代もグーテンベルグからグーグルに変わって行く」のだ、と同協会のダグ・バーサル会長。(CJC)
〇『世界青年の日』参加の青年約40人が亡命申請
国連難民高等弁務官ブラジリア事務所が8月22日、リオデジャネイロの『世界青年の日』に参加した青年約40人が政治亡命を求めている、と語った。(CJC)
《メディア展望》
=カトリック新聞(8月25日)=https://www.cwjpn.com
★「マリアは寄り添っている」=教皇「聖母被昇天」のミサ
★教皇=平和の女王マリアに=エジプトの平静回復 祈る
★"災害時"の支援考える=「障害者のつどい」シンポ=名古屋
★聖心姉妹校の生徒=被災地で合同研修
★15年前 バザー"大改革"=地元作業所と共に楽しむ=大阪・堺教会=とりくみ拝見
=キリスト新聞(8月24日・休刊)=https://www.kirishin.com
=クリスチャン新聞(8月25日)=https://jpnews.org
★平和を祈る鐘の音 東京に=被爆都市長崎の思いを分かち合い=平和都市宣言した板橋に転任の牧師
★8・15集会=国防軍で再び「英霊」つくるのか=平和キャンドル行動=対抗デモから罵声も
★同盟基督平和祈祷会=天皇元首化は戦前復帰=中山弘正・元明治学院長=改憲に危機感
★「からし種の信仰 城壁崩す」=再軍備憂え 千鳥ヶ淵で平和祈る
★エジプト政変下で教会に敵意=「モルシ追放はキリスト者の企み」と
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