世界キリスト教情報 第983信(2009.11.23)
- カンタベリー大主教、教皇と20分間会見
- 教皇、「人間一人ひとりの価値を知ることが、飢餓撲滅への第一歩」
- 米福音ルーテル教会の対立が決定的段階に
- 米キリスト教指導者が「マンハッタン宣言」発表
- 米社会の対立映す?「オバマのための祈り」
- ベツレヘム聖書大学が「平和と正義の務めの中の神学」主題に3月会議
- 中国のキリスト者人権弁護士が13時間拘留される
- 《メディア展望》
◎カンタベリー大主教、教皇と20分間会見
【CJC=東京】教皇ベネディクト16世とカンタベリー大主教ローワン・ウイリアムズ氏が11月21日、バチカン(ローマ教皇庁)で約20分間会談した。同性愛者の聖職叙階や結婚問題、また女性聖職に反対し、世界聖公会共同体に亀裂が入りかかっている中で、カトリック教会が「不快感を持っている人を受け入れる」使徒憲章を公布すると10月20日発表したことから、事態が急進展し、今回の大主教バチカン訪問となったもの。
会談後に発表された声明は、共同ではなかった。バチカン側は大主教訪問の重要性を薄めることに力を入れていた。大主教は教皇でなくバチカンの大学の一つが招待したものだ、としている。「私的な訪問で、儀礼的なものよりは僅かばかり公式な」ものという指摘もある。
会談をバチカンは「心のこもった」とし、ウイリアムズ氏は「友好的」と評価したものの、「憲章の発表の扱われ方に懸念している」と語ったと言う。「明らかに多くのアングリカン(国教会信徒)は、わたし自身を含め、当面やっかいなことになった、と感じている」とウイリアムズ氏は教皇との会談後、バチカン放送に語っている。
ベテランのバチカン・ウォッチャー、ブルーノ・バルトローニ氏は会談の前に、両教会指導者は「善意を前面に出し、エキュメニズムが他の問題でも前進していることを示そうとするだろう」とAFP通信に語った。
「実際に起こったことは、双方がエキュメニズムは失敗したと認めたこと。カトリック教会は女性司祭や司教の問題で決して妥協しないことを明らかにした」。その結果「アングリカンの保守派がカトリック教会に行くことになり、それが現実的だ」と言う。
ウイリアムズ氏と事前に協議しなかったことで、バチカンを無礼だと非難する国教会指導者もいる。ウイリアムズ氏自身が事の経緯を知らされたのは最終段階に入ってからだ、と報じられている。
また聖公会の最近の傾向に幻滅しているアングリカンを教皇が意図的に「密漁」しようとした、と考える人は多い。
しかしウイリアム氏は使徒憲章が与えた衝撃を和らげようとしている。教皇のイニシアチブがこれまでの基本的な関係を変えはしていないし、教皇は一致のための協議を続ける必要を強調した、とウイリアムズ氏は語っている。
ウイリアムズ氏は教皇の「主なメッセージは...憲章がバチカンの聖公会共同体に対する姿勢に何らかの変革をもたらすものではない」と言う。そして女性の聖職叙階や教皇首位性などを次の両派の討議では議題に載せたいと語った。
現在、国教会の450小教区(教会)が離脱しローマへの帰属を検討中という。ただ実際にカトリック教会への移行には、解決すべきさまざまな問題がある。まず教会堂などの財産問題。多くが美しい建物。カトリック教会側が買い取ろうとしても国教会側に売却意図はなさそう。そこで賃借案も出されている。ただ修理・維持費用をどうするか、なども難題だ。
◎教皇、「人間一人ひとりの価値を知ることが、飢餓撲滅への第一歩」
【CJC=東京】教皇ベネディクト16世は11月16日、ローマの国連食糧農業機関(FAO)を訪問、この日開幕した世界食糧サミットで講演した。会議には60国以上の首脳・閣僚らが出席し、深刻化する世界の飢餓・貧困問題の解決策を討議した。
バチカン放送(日本語電子版)によると、講演の席で教皇は、飢餓に打ち勝つには、人間一人ひとりのかけがえのない価値を再認識することが必要であり、食糧問題は人類家族の共通課題として皆がより具体的・積極的に取り組むべきものと訴えた。
飢えは貧困の最も過酷な実態であり、飢餓の悲劇が広がる中で富や無駄を受け入れ続けることはできないと教皇は強調した。
教皇は、世界にはすべての人の栄養を培うだけの食糧はあるはずなのに飢餓が存在するという事実に、利益を目的とした経済システムの存在を指摘、世界から飢餓を無くすには、国際社会が調和ある経済成長と政治的安定を推進するだけでなく、倫理的・法的・経済的な新しい基準をもって、様々な発展状況の国々の対等な協力関係を築くことが大切と述べた。
◎米福音ルーテル教会の対立が決定的段階に
【CJC=東京】同性愛聖職者をめぐる米福音ルーテル教会(ELCA=信徒約460万人、加盟1万391教会)内部の対立が、一部教会の離脱、新教派結成にまで進展しそうだ。
反主流派組織の連合体『CORE』のポウル・スプリング議長は「日々、わたしたちは、何とかしろという声を聞いており、それに応えている」と語った。ELCAのシカゴ本部は、予期したことだ、とジョン・ブルックス報道担当が語った。
COREは、この8月、ミネアポリスで開かれたELCA大会で、同性愛聖職者容認問題で反対投票を呼び掛けた。その甲斐あってか、可決に必要な3分の2の賛成票を僅か1票上回っただけだった。
大会は、反対派に即時行動に出ないよう求め、COREに結集した代議員は分裂への動きを1年間待つことに合意した。しかし11月に入って、ミネソタ州では2番目に大きなホサナ教会(信徒4500人)が、待ちの姿勢を改め、離脱に必要な2回の表決の第1回を12月半ばまでに行う、と発表した。
教会の間で我慢出来なくなっている所が増えている、とCOREの構想・計画作業グループのライアン・シュワーツ議長は言う。グループは新教派の大枠を策定している。「1年待つとした時、ただ座って過ごすつもりではなかった。計画することにしていたし、これからは新たな教会組織を作るための詳細調査に入る」と言う。
加盟教派を離脱する決定は安易なものではない。離脱を考慮中、とELCAに通告した87教会の中で必要な賛成票を得られなかった教会が28に達している。
◎米キリスト教指導者が「マンハッタン宣言」発表
【CJC=東京】米国の保守的福音派と伝統主義カトリック者の指導者150人以上が11月13日、妊娠中絶と同性間の結婚への反対を再確認、宗教の自由を保護することを誓う共同宣言「マンハッタン宣言=キリスト者の良心の呼び掛け」を発表した。
宣言は、医療保険の総点検、同性間結婚の是非などの政治・社会的論議の争点になっているものを取り上げた。
「キリスト者やわたしたちの組織が結婚という制度を支持することに、しばしばあきれるほど失敗してきた」と認めながらも、宣言は同性間の結婚を拒否している。
宣言は、同性婚に法的な扉を開くことは、複数恋愛関係、一夫多妻の家庭、成人の兄弟姉妹が近親相姦的関係についても認めることになる」と指摘している。
宣言には、ティモシー・ドーラン・ニューヨーク大司教、ドナルド・ウイロウ・ワシントン大司教らカトリック司教15人、『フォーカス・オン・ザ・ファミリー』の創設者ジェームス・ドブソン氏、全国福音同盟(NAE)のライス・アンダーソン議長や神学校指導者、大学教授、牧師らが署名している。
◎米社会の対立映す?「オバマのための祈り」
【CJC=東京】米国で「オバマのための祈り」と印刷されたステッカーが出回ったり、Tシャツが売り出されて、問題になっている。それは下の部分に「詩編109・9」と刷り込まれているから。その個所は「子らはみなしごとなり/妻はやもめとなるがよい」(新共同訳)と記されており、単なるいたずらにしては度が過ぎるということのようだ。
キリスト教保守派の大勢力と目される南部バプテスト連盟の元副議長ウイリー・ドレイク牧師は11月初めフォックス・ニュース・ラジオに、大統領が死ぬよう神の呪いを願って『呪いの祈り』を行っている、と語った。
同派はかつて奴隷制度を支持していたことがあり、今も女性の妊娠中絶の権利には断固反対している。
このような動きの中で出て来た「祈り」だけに、支持率急低下の中、米社会での対立の深さを改めて示すものと言える。
◎ベツレヘム聖書大学が「平和と正義の務めの中の神学」主題に3月会議
【CJC=東京】ベツレヘム聖書大学は福音派の超教派聖書学校として、30年にわたり神がパレスチナ市民の間に生きて居られること、そしてその地に神の祝福があるとの生きた証人だったと自ら認めている。
その大学が2010年3月12〜17日に学内で「チェックポイントでのキリスト=平和と正義の務めの中の神学」を主題に会議を開催することになり、パレスチナ自治区の他、世界各地の神学者たち招待した。それに応えて参加を表明した人はトニー・カンポロ、ブラザー・アンドリュー、ポール・アレキサンダー、コリン・チャプマンの各氏ら。
「わたしたちは、より広い教会とつながっている、と確信しているが同時に、地球規模のキリスト者という家族に察知してほしいと求め続ける必要がある、と分かっている」と同大学を設立したビシャラ・アワド総長は語った。
◎中国のキリスト者人権弁護士が13時間拘留される
【CJC=東京】米国に本拠を置くキリスト教人権監視団体『対華援助協会』によると、中国のキリスト者人権弁護士江天勇(ジャン・ティアニョン)氏夫妻が11月19日朝、北京市海淀区の自宅前で警察に無理やり自動車に載せられ、13時間にわたって拘留された。夫人は7歳の令嬢の前で殴打された。人権弁護士10人以上が、江氏の釈放を求めて警察前に集まった。
江氏が米国で中国の人権抑圧の実態を4週間にわたり講演して17日帰国したばかりのこととあって、『対華援助協会』は北京の米国大使館に連絡し、館員が外交省に米政府の懸念と警察の行動への反対を申し入れた。
江氏は、訪中したバラク・オバマ米大統領と会見しようと計画したとして前日に拘留された弁護士2人の中の1人。
《メディア展望》
=カトリック新聞(11月22日)=https://www.cwjpn.com
★教区や宣教・修道会の枠を超えて=多国籍の人と歩む道を=第5回修道会・宣教会フォーラム
★札幌教区、地主司教退任=教区管理者に菊地司教
★JCCA定例会=依存症からの回復=当事者と専門家に学ぶ
★日キ連=小沢幹事長のキリスト教非難=撤回求め、抗議文出す
★カリタスジャパン=スーダン・ダルフール地方で=紛争後 初の視察
★バチカン=使徒憲章を公表=聖公会信者受け入れへ
=キリスト新聞(11月21日)=https://www.kirishin.com
★教会生むキリスト教学校を=日本伝道フォーラム2009 in YOKOHAMA
★砂川訴訟=公正審理求め署名2万4千筆=最高裁大法廷 来月2日に口頭弁論
★石井研士氏=武蔵野大仏教文化研シンポ「宗教とメディア」=伝統宗教が機能していない
★日本福音振興会が功労賞顕彰=芳賀正、井上耕作の2氏
★山上国際学寮=第1回市民公開講演会=「東アジアの平和」に提言
★米国=「同性愛者保護」法成立=合同キリスト教会は歓迎
=クリスチャン新聞(11月22日)=https://jpnews.org
★5歳未満 年880万人が死亡=救えるはずの命 救おう=ワールド・ビジョン=死亡率3分の1に削減目指す
★福音功労賞=海外宣教など貢献 芳賀 正氏=井上耕作氏 信徒活動で主導
★相模原「富弘 花の詩画展」に感動=渇きない時代の魂に潤い与え
★アジア・アウトリーチ主事交代、京都に移転
★「夜来香」から賛美歌へ=福音歌手第1号=胡美芳さん逝去
★日本初「平和」の文脈から定義=『キリスト教平和学事典』
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