世界キリスト教情報

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世界キリスト教情報 第942信(2009.02.09)

  • 分裂を癒した教皇、新たな分裂に直面か
  • ウイリアムソン司教はなお自説撤回せず
  • イスラム法導入、スイスでも是非論議
  • サウジのキリスト者ブログを理由に逮捕
  • 「国民性守るために流行の名前減らそう」、クロアチアの教会が報奨金
  • 患者と祈ることを申し出て英国の看護師が免職も
  • 《メディア展望》

◎分裂を癒した教皇、新たな分裂に直面か

 【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世が、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を否定した英国人のリチャード・ウイリアムソン司教を含めて、故マルセル・ルフェーブル司教が創設した『聖ピオ十世会』の司教4人の破門撤回を宣言したことは、ユダヤ人社会の憤激を呼んだが、教皇の決定に関する懸念は、カトリック教会、特にバチカン(ローマ教皇庁)自身にまで広がった。
 キリスト教一致推進評議会議長のヴァルター・カスパー枢機卿は1月25日、相談されたことはなく、「それは教皇の決定だった」と電話インタビューで語った。国務省長官タルチジオ・ベルトーネ枢機卿は2月4日、ウイリアムソン氏は司教の務めを果たそうとするなら見解を明白に撤回すべきだ、と述べて事態沈静を図った。
 ユダヤ人集団と自由主義的なカトリック者の間に怒りを引き起こした問題を、教皇が周辺と議論しなかったことは確かなようだ。どうも教皇は着座以来の4年間、教義上の問題に力を入れるものの、それがより大きな世界でどのような反響を呼ぶか、ということに気づいていない、とも見られる。
 2007年に教皇は、伝統的なラテン・ミサを、より幅広く使用することを認めた。それは今回、破門を撤回した伝統主義者が求めていたものだったが、教会の中に不和を招くとの声が上がった。同年、教皇は故国ドイツを訪問した際、講演でイスラム教徒を憤慨させる「悪魔的、非人間的」という内容の引用を行ったが、これも慎重さを欠いていたことは否めず、結局は謝罪に追い込まれた。
 そして今回の破門撤回だ。『聖ピオ十世会』は第二バチカン公会議の改革に反対して設立された。創設者ルフェーブル大司教はバチカンの承認なしに聖職叙階を行ったことが直接の契機となって1988年、教皇ヨハネ・パウロ二世によって破門された。それを撤回するという決定は、教皇ベネディクト十六世の意向に沿ったものであり、少なくとも教皇の関心の在りかを示している、と言えよう。
 ただドイツ語圏の教会指導者は反発している。オーストリア司教会議会長のクリストフ・シェンブルン枢機卿は「間違いが起きたのは確かだ。ホロコーストを否定する人を教務に復職させることは出来ない」と言う。また同枢機卿は、同国リンツの補佐司教任命に際しても諮問がなかったことに不満を表明している。ドイツ司教会議前会長のカール・レーマン枢機卿も、破門取り消しについてバチカンが謝罪するよう求めている。これほど明確にバチカンへの抗議の声が枢機卿レベルから出て来ることは異例だ。
 今回の動きは、教会史専門でイタリア・ボローニャにある自由主義的な『ヨハネス二十三世宗教科学財団』所長アルベルト・メローニ教授をも戸惑わせた。同財団は第二バチカン公会議の歴史を編纂している。同教授は「結果を計算しないことが可能だということがどうにも不可解。これは異常だ」と言う。
 ユダヤ教指導者は、教皇の決定が障害だ、と言う。イスラエルのバチカン駐在モルデカイ・レヴィ大使は「神学的な戦略ではあろうが、教会を越えた世論という場にどのような影響を与えるか、ということは教皇にとって2番目のことなのは明らかだ」と指摘する。「非常にゆゆしい事態だ」と、ローマの主任ラビ、リッカルド・ディ・セーニ氏。今後の推移を見極めにくいと言う。
 教皇は「教会とキリスト教から自身が疎外されているとは思わず、現実を見ないで、バチカンを見ているだけ」だとか、十六世とは十六世紀のという意味ではないか、などの声をよそに、一途にその務めを果たしているのだ、とも見られる。


◎ウイリアムソン司教はなお自説撤回せず

 【CJC=東京】バチカン(ローマ教皇庁)から破門を撤回されたもののホロコースト(ユダヤ人虐殺)を否定する発言でユダヤ人社会や教会内外から反発を招いている『聖ピオ十世会』のリチャード・ウイリアムソン司教が、独週刊誌デア・シュピーゲルとのインタビューで、まずナチスによるユダヤ人迫害について事実検証を望んでいる、と語った。ユダヤ人数百万人がガス室で殺害されたという証拠があれば謝る、と言う。インタビューは2月初めの号に掲載された。
 ウイリアムソン氏はこの1月、スウェーデン国営テレビのインタビューで、ユダヤ人600万人がガス室で殺害されたことは史実ではない、として第二次大戦下でのユダヤ人の死者は20万人から30万人だ、とホロコーストを否定、ガス室は作り話だ、と語った。


◎イスラム法導入、スイスでも是非論議

 【CJC=東京】スイス・フリブール大学の社会人類学者クリスティアン・ジョルダーノ教授が、イスラム教の法「シャリア」の要素をいくつかスイスに導入すべきだと提唱した。現在のスイスの法制度は少数派に対して「偏狭過ぎる」と主張し、多元的法体制の導入を提案している。
 チューリヒの日曜紙『ノイエチュリヒャー・ツアイトゥング・アム・ゾンターク』はジョルダーノ氏の提案を「無邪気なもので、これで何が解決されるのかよく分からない」と批判、「スイスにはシャリア法が入り込む余地はない。スイスに住む一部の人々に特権を許すようなことはなされるべきではない」と指摘している。
 ジョルダーノ氏は「わたしが要求しているのはイスラム教徒のための特別な権利というより、多元的法体制だ」と言う。
 論争の発端は、スイス連邦人種差別対策委員会 が年2回発行している雑誌『タングラム』の12月号に寄稿したジョルダーノ氏の論文だった。
 スイスインフォの日本語版サイトによると、ジョルダーノ氏は「民族的、文化的なさまざまな社会の中で多元的法体制はほとんど現実となっているが、その多くは無視されたり、社会の団結を脅かすものとして認識されているために否定されたりしている」として、多元的法体制はむしろ、文化的な特異性を考慮する法のメカニズムのどこかに導入されるべきものだと提案する。「多文化主義とは文化が多様であるだけではない。それは政治的に管理された文化の多様性なのだ」と言う。


◎サウジのキリスト者ブログを理由に逮捕

 【CJC=東京】サウジ国籍のハムード・ビン・サレー氏(28)はインターネット上に、イエス・キリストに従うという決意を書き込んでいたところ、1月13日にサウジ当局に逮捕されていたことが明らかになった。人権擁護団体『人権情報のためのアラブ・ネットワーク』(ANHRI)によると、「彼の主張と、イスラム教からキリスト教へ転向したと証した」のが理由という。
 同氏は2004年に9カ月、08年に1カ月拘束されており、今回が3回目。背教を理由に死刑に処せられる可能性もある。
 「ハムード氏を沈黙させようとするサウジ当局の努力は驚くには当たらない。これはいわゆる"穏健派アラブ国家"がキリスト者の基本的権利や自由をもっともひどく抑圧している国の一つであることを示している」とインターネット・サイト『アラブ・ビジョン』の国際部長は指摘する。「しかしグーグルがハムード氏のブログ・ページを阻止するためサウジ当局に協力したとなるとこれは裏切り行為だ。ブログをやる人へのサービス提供条件違反というのが、理由とされている。グーグルはイスラム教からキリスト教への改宗を違反と見なすのか。アラブ世界で活動しているメディアとして、私たちは、サウジアラビアでグーグルが行っている検閲と人権侵害に対する協力・支援に抗議する」と言う。


◎「国民性守るために流行の名前減らそう」、クロアチアの教会が報奨金

 【CJC=東京】国民性が「侵食」されることを憂えたクロアチアの司祭が、流行に乗らず新生児に伝統的な名前を付けた両親たちに、報奨金の支払いを申し出た。2月4日、現地日刊紙ユタルニ・リスト報道としてAFP通信が報じた。
 同国南部の港湾都市プロチェのカトリック教会のペタール・ミキッチ司祭が、教会の入り口に「子どもの洗礼の際、祖父母や聖者にちなんだ名前を付けた両親に1000クーナ(約1万6000円)を差し上げます」と書いた告知を貼った。
 ぺタール司祭は「クロアチアらしさが薄められ、消えることのないよう、守らなければならない。自分がどの国に属しているのかを最もよく理解できるのは名前を通じてだ。子どもたちにクロアチアらしい名前をつけることを、祖先も誇りに思うだろう」と述べた。


◎患者と祈ることを申し出て英国の看護師が免職も

 【カンタベリー(英)=ENI・CJC】キャロライン・ペトリーさん(45)は10歳のころから熱心なキリスト者、ロンドン西方225キロにあるウェストン・スーパー・メアで看護師として働いていたが、足の怪我に苦しんでいる高齢の患者のために祈ろうとしたことが問題となり、停職処分を受け、さらに免職される可能性も出てきた。
 「彼女の行動については介護側と患者の見解の双方から判断しなければならない」とノースサマセット・プライマリー・ケア・トラストのリチャード・フォーショー所長は言う。
 『看護師・助産師協議会行動規範』は、看護師が「健康と関係のない問題で、専門的な立ち場を利用してはならない」と規定している。同所長は「彼女が、職場で彼女の信仰を広めることについて警告されたのは、これが初めてではない。これからのことは予測できない。私たちスタッフの見解と同様に私たちの患者の見解を重んじなければならない」と言う。
 2児の母でもあるペトリーーさんは、癌による母の死の後に、英国国教会からメソジスト教会に転籍した。
 今回の事件を英メディアも注目している。デーリーメール紙は「祈って迫害される」と大見出しで報じ、論説では「現代の英国の組織が、信仰やライフスタイルを保護することを決めたのはなぜか...それがキリスト教ではないのに」と疑問を掲げた。
 デイリー・テレグラフ紙は「高齢の患者の回復のために祈ることを申し出た看護師が停職」と言う見出しで事態を報じた。
 患者はメイ・フィッペン氏(79)。自宅で12月15日、ペトリーさんが足を処置し包帯した後で、祈っても良いか尋ねたが、その申し出を辞退した。「祈りがどうというのではない。看護師が祈るということが奇妙で驚いた」と言う同氏もキリスト者で、常に教会に通っている。
 翌日、ペトリーさんは、同僚からフィッペン氏が祈るとの申し出に「驚いた」と言っていたことが伝えられ、その後、停職処分を受けた。彼女はジャーナリストに「信じられないことだ。私は患者を動揺させはしなかった。尋ねることでどのような害もあると思わなかった。自分のキリスト教信仰を患者に押し付けてはいない」と語った。
 先ごろ結成されたキリスト教法律センター(CLC)がペトリーさんのケースを支援している。アンドレア・ウィリアムズ所長は「キリスト者市民が、平等と多様性政策のため、仕事をしたいのなら黙っているか、そうでなければ『公共の分野』から排除されることになるのは、重大な関心事である」と声明で指摘している。


《メディア展望》

  =カトリック新聞(2月8日)=https://www.cwjpn.com
★外キ協=外国人差別解消目指し=浦和教会で全国集会開く
★世界病者の日2月11日=教皇庁保健従事者評議会議長が発表=「盛大な行事3年に1度 」
★ロシア正教会新総主教にキリル府主教選出
★正義と平和協議会が黙想会=「社会的霊性」を深める=長崎
★教皇、破門を赦免=ルフェーブル派の4司教 

  =キリスト新聞(2月7日)=https://www.kirishin.com
★控訴審も実質審理せず=教基法違憲訴訟=牧師ら陳述=信仰に立って証
★ロシア正教会総主教にキリル氏=バチカンとの対話に注目
★カトリック社会司教委が緊急アピール=「いのち守る働きに参加を」
★NPO法人コイノニア=事務所・店舗が焼失=今春再建へ支援広がる
★同志社大=クラーク・チャペルで復元後初の挙式=支えあう二人の手伝いを

  =クリスチャン新聞(2月8日)=https://jpnews.org
★在留許可求め再審請願=イラン人男性「収容所」で受洗=「主のほか恐れるものはない」
★祖国民主化願い一つに=在日ミャンマー人=民族・宗教超えて祈りの集会
★またも牧師のセクハラ=「小牧者訓練会」創始者ビュン氏=本人は否認="愛"口実に支配?=小牧者出版は決別宣言
★在日韓国基督教総協議会が断絶声明=早く悔い改め償いを
★JEAが加盟教団・団体代表に要請=不祥事防ぐ対策急務=リーダーのあり方厳しく点検を


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