世界キリスト教情報

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世界キリスト教情報 第937信(2009.01.05)

  • ガザ抗争激化に教会指導者が和解訴え
  • ガザ境界線両側で住民被害、和平見通し遠のく
  • ガザでバプテスト教会も被爆
  • 激動の最中に世界各地でクリスマス
  • サンタクロースではなく聖ニコラスの精神を
  • クリスマスのミサは教会税納入者だけに、と独の一部議員
  • 教皇がジェンダー理論を非難 「人間の自己破壊につながる」

◎ガザ抗争激化に教会指導者が和解訴え

 【CJC=東京】パレスチナ自治区ガザを実効支配しているイスラム教過激派組織ハマスがロケット攻撃を仕掛け、死者2人が出たのを口実にイスラエルがガザ封鎖を強化し空爆を繰り返した。2008年末には死者が390人を超え、キリスト教界も憂慮している。
 教皇ベネディクト十六世は12月28日、バチカン(ローマ教皇庁)で恒例のアンジェラスの祈りに際して、「いかなる形のものであれ非難されるべき暴力の停止とガザの停戦復活を願う」として、袋小路に入ったイスラエルとパレスチナ市民を助け、対決と暴力という倒錯的な論理に身を任すのではなく、対話と交渉の道に進むことに全力を尽くすよう国際社会に訴えた。
 ジュネーブでは、世界教会協議会(WCC)のサミュエル・コビア総幹事が、「ガザに対する暴力」を非難、地域さらにその他政府が「境界線の双方で、危険にさらされている人たちの保護を訴える声明を発表した。
 コビア氏は「地上で最も人口が密集した地域の一つへの爆撃」を見て、「事態発生後3日間で見られた死と苦難は悲惨で恥ずべきものであり、さらなる死と苦難を生み出すだけで何も得るものはない。即時停止しなければならない」と語った。
 ガザに駐在している国連救援機関も同日、イスラエルの攻撃で少なくともパレスチナ市民312人が犠牲となったが、ロケット攻撃で死んだイスラエル人は2人だ、と述べている。
 コビア氏の声明は「イスラエル政府とハマスが国際間の人道的な人権法規を尊重」するよう求めたWCCの呼び掛けを繰り返したもので、現状でイスラエルが地上軍を使用することは「惨状を悪化させる」と警告している。
 声明は「ガザの住民150万人のための食糧、医薬品、燃料輸送を遮断することをねらったり、境界線を越えて無差別にまた焦点を定めてロケット弾を発射する政策」を非難している。「出口が見えず喪失だけという恐るべき事態がより大きな暴力に発展した」と言う。声明は「自身の政府の責任は認めないまま相手を非難するという、使いふるされた論法がさらに多くの生命を奪う」ことに言及している。
 エルサレムでは『人権のためのラビ』グループが同日発表した声明で、「ガザに隣接したイスラエル共同体への砲火はイスラエル国家に、その市民を防御する権利を与えるものの、ユダヤの伝統と国際法の双方とも、無関係な民間人を傷つけることを許してはいない」と指摘している。
 ラビは「多くのイスラエル人は『誰かが、あなたを殺そうと来る時に、より早く立ち上がり、先に彼を殺せ』というタルムードの教えサンヘドリンから引用するだろう。しかし、タルムードが、最小限必要な力だけを使うことを教えて、私たちを攻撃するものに対して自分を守ることと、無関係な第三者を傷つけることを明確に区別していることに気づいていない。それはまた国際人道法の原則でもある」と言う。
 恒例のクリスマス・メッセージの中で、エルサレム諸教会の指導者は「占領から発生する規制という重荷をなくすために、より現実的に両政府に解決を働きかけることを可能にするには、この地を照らすキリストの光を私たちは必要としている」と述べた。「私たちはまた、キリストの光の中で、多くの人がガザで苦難の中にいることを見て、緊急援助を彼らに行う断固とした努力をする必要がある」と言う。
 教会指導者は、米国のバラク・オバマ次期大統領など世界の指導者が中東と聖地での平和が緊急必要事と認めるよう祈っていると語っている。
 ジュネーブでは、キリスト教会の世界規模の人道援助連合『国際ACT』などが、イスラエルやハマス他の武装グループが現在の交戦状態を止めず、新しい軍事衝突を回避しないならば、ガザの人道危機が劇的に拡大する、と警告している。
 「無関係な民間人への人道的な影響は、全当事者が直ちにすべての攻撃を終え、新たな停戦を開始しなければ、深刻さを増すことになろう」と『国際ACT』のジョン・エンドゥナ氏は言う。


◎ガザ境界線両側で住民被害、和平見通し遠のく

 【CJC=東京】パレスチナ自治区ガザでは、実効支配するイスラム原理主義組織ハマスによるイスラエル側へのロケット攻撃と、それを封じ込めようとするイスラエル軍の12月27日からの大規模空爆に加え、1月3日には地上侵攻も始まり、対話による和平は見通しがさらに遠のいている。
 地上侵攻は05年9月にガザからイスラエル軍が撤退して以来の最大規模。イスラエル軍報道官は、同国へのロケット弾攻撃を封じ込めるためハマス軍事部門を解体することが目的と説明している。
 イスラエル外務省は、空爆開始直後に臨時報道室を開設し、イスラエル側の被害状況を24時間態勢で広報している。
 報道室のまとめでは、ガザ空爆が始まった27日から30日までに、迫撃砲とロケット弾計239発がイスラエル領内に撃ち込まれ、4人が死亡、77人が負傷した。
 一方、イスラエル軍は1月1日、ガザへの6日目の空爆で、政府庁舎やハマス幹部宅などを攻撃、ハマスのガザ地区北部の責任者で政治部門の最強硬派ニザル・ラヤン氏を殺害した。同氏は直前に空爆について警告を受けたが退避せず、自宅にとどまっていたという。妻と子どもら9人も巻き添えで死亡した。大規模空爆開始以来のパレスチナ人の死者は、ロイター通信によると、市民を含め500人を超えた。
 イスラエルのツィピ・リブニ外相は1日、パリでニコラ・サルコジ仏大統領らと会談したが、「ハマスと一般住民を区別している。ガザに人道危機はない」としてフランス政府提案の48時間停戦を改めて拒否した。


◎ガザでバプテスト教会も被爆

 【CJC=東京】パレスチナ自治区ガザで、イスラム原理主義組織ハマスに対するイスラエル軍が1月1日、警察署を狙った際、街路の向かい側のバプテスト教会も被災、数十人が犠牲となった。教会は、窓は吹き飛ばされるなどほぼ全壊状態。
 ガザではキリスト者は少数派で、イスラエルとハマスの交戦の狭間に置かれていることが国際的な懸念を呼んでいる。
 イスラエル政府は、世界で最も人口が密集している地域の一つであるガザへの空爆では、民間人の犠牲者を避ける努力をしてきたものの、イスラエルへのロケット攻撃を止めない限り、ハマスを目標とし続ける、と言う。
 米の信仰抑圧監視団体『オープン・ドアーズ』のカール・メラー会長は、教会被災に失望を表明、今や破壊の核心にいることは明白だとしている。
 教会のハナ・マサド牧師は、退去を強制された。パレスチナ聖書協会の従業員は、ヨルダン川西岸地区に脱出した。ガザの人口約170万の中で、キリスト者は数百人から最高でも3000人以下と激減している。礼拝も家庭で少人数で行うしかない。
 イスラエル政府は1月2日、地上侵攻を控えて、外国のパスポート保持者にガザ地区退去を認めることを明らかにした。
 パレスチナのキリスト者は、イスラエルにもまた市民にも政治的に受け入れられない。「イスラエルの基準では、彼らはパレスチナ市民」であり、ハマスなど原理主義的なイスラム教基準では、キリスト者は部外者なのだ。「そこでキリスト者は正に文字通りに双方からの砲火にさらされることになる」とメラー氏は言う。「教会の地位は不安定で、信者が物質的な援助を受けることは非常に難しかったが、交戦の中では全く不可能になった」。
 「しかし、教会がもろい存在で無防備であるという不安定な性質であるからこそ、私たちは、そこのキリスト者が、生存のために必要とする食糧、衣類、医薬品などを送り届けなければならない」とメラー氏は、宣教専門通信ミッション・ネットワーク・ニュースに語っている。


◎激動の最中に世界各地でクリスマス

 【CJC=東京】2000年のインティファーダ(対イスラエル蜂起)発生後、パレスチナの内紛やレバノン紛争の影響で、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のイエス・キリスト生誕地ベツレヘムも巡礼や観光客が減り続け、06年は20万人にまで落ち込んだが、08年は、8年ぶりに観光客数が100万人を突破、過去最高水準となるなどクリスマスのにぎわいを取り戻した。
 「聖誕教会」では、キリストが生まれた馬小屋跡とされる「聖誕のグロット(洞穴)」に入るのを待つ人たちの姿が見られ、隣接する聖カテリナ教会では24日夜から25日にかけ、毎年恒例の特別ミサが行われた。
 パレスチナ自治区ガザのカトリック教会ではクリスマスを間近に控えた21日、ミサが行われた。イスラム原理主義組織ハマスが実効支配するガザ地区には、約2000人のパレスチナ人キリスト者が居住している。
 イラクの首都バグダッドでも23日、生花店の店頭でクリスマスツリーを飾る店員の姿が見られた、とAFP通信が報じている。同国で少数派のキリスト者は、米軍によるイラク侵攻後に多くが国外へ脱出し、侵攻前にいた約80万人から3分の1以下にまで減少したという。
 バチカン(ローマ教皇庁)では、教皇ベネディクト十六世が25日未明、サンピエトロ大聖堂でクリスマスイブ恒例の深夜ミサを行なった。教皇は「キリストが生き、深く愛した地」に和平が訪れることを祈り、「心が開かれ国境も開かれることを祈ろう」と呼びかけた。また「(世界の)ストリートチルドレン、少年兵士、児童ポルノの犠牲者に思いをはせよう」と訴えた。
 深夜ミサには枢機卿32人など数千人が参列し、聖堂に入りきれなかった人たちは、広場に設置された巨大テレビ画面に見入った。
 教皇はさらにサンピエトロ広場に集まった巡礼者ら数千人を前に、クリスマス恒例のメッセージを読み上げ、世界の紛争解決の必要性を強調した上で「特に子どもたちは神の光を必要としている」と、国際社会が紛争地の児童の問題により目を向けるよう呼び掛けた。
 教皇はイスラエル、パレスチナ、レバノン、イラクなどの中東地域のほか、ジンバブエ、コンゴ(旧ザイール)、スーダン西部ダルフール地方などアフリカの紛争地を挙げ、対話と交渉を通じた問題解決を訴えた。教皇のクリスマスメッセージは、テレビでも中継され、数百万人が視聴したと見られる。
 サンピエトロ広場には、キリスト降誕シーンの情景模型が展示されている。1982年に当時のヨハネ・パウロ二世が、イタリアの伝統にならって降誕の場面を再現して以来、恒例となっている。
 英テレビ局チャンネル4はクリスマスの25日、イランのマフムード・アフマディネジャード大統領のメッセージを放送した。「イエス・キリストが現在も生きていたら、弱い者いじめを好む上に常に不機嫌で拡大主義の権力に反対する人びとに味方するだろう。また、キリストは正義や人類愛の御旗を高らかと掲げ、世界中の戦争屋や占領者、テロリストなどに反対することだろう」という内容。
 チャンネル4はエリザベス英女王が毎年クリスマスメッセージを発表していることを踏まえ、「異なる立場からの」メッセージとして、93年から米黒人指導者ジェシー・ジャクソン牧師や米同時多発テロの経験者、米アニメ「ザ・シンプソンズ」の登場人物マージなどのメッセージを放送している。
 ジョージ・ブッシュ米大統領は「われわれの敵は休日をとらない」として、クリスマス休暇にも休みなくイラクやアフガニスタンの前線に立つ兵士たちの「献身的努力」に感謝し、支援を続けるよう国民に求めた。バラク・オバマ次期大統領は「不況にあえぐ国民にとっても厳しい時だ」と述べ、景気と雇用の回復に全力を挙げる考えを改めて示した。
 北京市内のマンションの一室で、"地下教会"のミサがひっそりと開かれた。50人を超す参加者の多くは20代、30代の大卒者。約半数は女性だった、と産経新聞は報じている。
 著名な反体制派作家で、ブッシュ米大統領に面会したこともある余傑氏の顔がみえた。共産党による一党独裁体制の廃止を求めた「08憲章」に署名した男性もいた。
 最近、北京の民主活動家が計画した地下教会のミサは「当局が場所を提供した施設に圧力をかけ、中止に追い込まれた」という。


◎サンタクロースではなく聖ニコラスの精神を

 【CJC=東京】「クリスマスの空疎な商業主義」を批判して独フランクフルトのエックハルト・ビーガー司祭が2002年に始めた「サンタ・フリーゾーン」運動。そのモデルとなった4世紀の聖ニコラスの精神を復活させることを目指したこの運動に、多くの賛同者が集まっている。
 カトリック慈善団体のクリストフ・ショマー氏は「商業主義が生み出したサンタクロースは、聖ニコラスと無関係だということを知らせたい」と語る。サンタ立ち入り禁止をマークにしたステッカーは、運動に共鳴した英国人が早速英語化した。ネット上にも紹介されている。
 聖ニコラスは、貧しい人々にこっそりプレゼントをしていた寛大さと謙虚さで知られる。毎年12月6日にカトリックやギリシャ正教会信者たちが「聖ニコラスの日」を祝う。
 サンタクロースの赤い服、太った体格、白いひげなどのイメージは、米コカコーラ社が1930年代に行なった宣伝が由来だとか。


◎クリスマスのミサは教会税納入者だけに、と独の一部議員

 【CJC=東京】ロイター通信によると、ドイツの与党キリスト教民主同盟(CDU)のトマス・フォルク議員が、クリスマス・イブのミサは教会税を納めている人のみに参列を認めるべきだと発言し、議論を呼んでいる。
 教会に欠かさず行っている人が、クリスマス人気のあおりを受けて座席を見つけられなくなる事態を懸念しているとし、教会側は参列者を選ぶべきだと言う。
 自由民主党(FDP)のマルティン・リントナー議員もビルト紙に、教会内のスペースが限られていることに懸念を示し、教会員には最高の席を確保するチケットを出すべきだと述べている。


◎教皇がジェンダー理論を非難 「人間の自己破壊につながる」

 【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世は12月22日、バチカン(ローマ教皇庁)で聖職者向けに行った年末の演説で、ジェンダー理論について、男性と女性との区別をあいまいにし、人間の「自己破壊」につながるものとして非難した。AFP通信が報じた。
 教皇は、カトリック教会が神の創造物を守るという時は、「大地や水、空気などを守るということだけではなく、人間を破滅から守ることも意味する」と語った。カトリック教会は、ジェンダー理論についてくりかえし反対する姿勢をとってきた。
 AFP通信によると、教皇は「熱帯雨林が保護するに値するならば、人間だってやはり同じことだ」と語り、「人類のエコロジー」を訴えた。さらに、「男性と女性という人間の性質」に敬意を払うことを求めることは「時代遅れの形而上学」ではないと強調した。


《メディア展望》

  =カトリック新聞(1月4日)=https://www.cwjpn.com
★教皇「世界平和の日」メッセージ=貧困と闘い、平和を築く=短絡的政策と不当な構造の見直しを
★いのちの倫理見つめる=東京・上智大で国際シンポジウム開催
★奄美・瀬留教会=住民と100周年祝う="歴史"糧に新しい教会へ
★パイプオルガンで宣教=名古屋=社会と教会の懸け橋に
★「共の会」に人権賞=愛知=外国人支援を評価

  =キリスト新聞(1月3日・休刊)=https://www.kirishin.com

  =クリスチャン新聞(1月4日)=https://jpnews.org
★宗教者らオバマ次期大統領に要請=政権の方向性変革を期待=支配にかえ多国間協力を
★原子力国策懸念=行政を対直す宗教者の会=核武装化・原発震災の危険性指摘
★宗教者九条の和=元幕僚長論文に緊急声明=文民統制の崩壊を懸念
★日本ローザンヌ委員会が発足=2010年ケープタウンに参加者推薦へ
★映画「ふうけもん」公開中止=東映=前売り券の払い戻しはなし


《新年のご挨拶を申し上げます》
 皆さまが、ますます励まれますよう、神様のお守りをお祈りいたします。
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