世界キリスト教情報 第908信(2008.06.09)
- 「援助」か「伝道」か、四川省地震被害者救援にも微妙な影響
- 北京五輪で政治や宗教の掲示禁止
- 駐パキスタン・デンマーク大使館付近で自動車爆破
- トリノ聖骸布を2010年に公開、教皇が発表
- 教会が郵便局を運営すると...米コネチカット州で訴訟に
- デトロイトで十字架からイエスの彫像盗まれる
- ロックのパイオニアのボ・ディドリー死去
- クレメント・ジョン氏死去
- 《メディア展望》
◎「援助」か「伝道」か、四川省地震被害者救援にも微妙な影響
【CJC=東京】中国四川省を荒廃させた5月12日の地震の後で、「援助」か「伝道」かという昔ながらの課題が、被害者救援に微妙な影響を及ぼしている。災害後、中国は現金、物品、ボランティアなどの形で国外からの援助受け入れを決めた。中国政府によると、内外の宗教団体から寄せられた援助は1億6000万元(約24億円)に達した。
これまで中国政府は、キリスト教会が外国からの影響を受けることを好まず、自立を要請し、それを受け入れたものを「公認」して来た。ただ一方で非公認の「地下教会」も見逃せない規模になっている。カトリック教会の場合は、司教任命にバチカン(ローマ教皇庁)の介入を認めなかったことから、両教会が並立しており、有力援助団体『国際カリタス』も、政治的に独自の地位にある香港の『カリタス香港』を通じ調査、援助を行っている。
被災地の四川省は山岳主体で交通路の整備もままならない事情もあり、政府は援助に関しても公認団体経由に集約、それ以外のルートは摘発される可能性もある。
現在、カトリックでは『進徳公益』、プロテスタントでは『愛徳基金会』や現地成都のYMCA(イザベラ・フア総主事)などの実情が伝えられており、日本などからの援助もこれら団体を通じることになろう。
宗教の自由をめぐって共産党指導者と福音派の対立は長いが、現在は手探りの状況だ。福音派内部でも、大規模地震という異常事態に、北京政府の規制をくぐり抜けることへの疑問も出ている。米『サマリタンズ・パース(サマリア人の財布)』は中国政府と直接接触して援助を進めるなどの動きも見せている。
米国に本拠を置く中国のキリスト教抑圧監視団体『対華援助協会』のサイトが『ウォールストリート・ジャーナル』紙報道として、ジョナサン・ブライト(30、韓国キリスト教学校教師、米国人)さんの事例を伝えている。ブライトさんは救援物資を集めて被災地に向かったが、目的を果たせなかった。北京から飛び立った飛行機が四川省の首都成都に着陸する前に、ブライトさんは聖書についての説明やキリスト教放送局に関する詳細を書き込んだカードを飛行機のトイレの落としたことが乗員の注意を引いたのだ。
中国警察は飛行機に乗り込んで来て、説明を求めた。その後で彼が望むなら別の便に乗せると言う。ブライトさんは帰ることにした。「私が新たな信者を生み出そうとしていると思って気にしたのだ」と言う。
ブライトさんの経験は、地震被害に苦しむ中国人へのキリスト教援助に対する緊張と疑念を反映している。
著名な大衆伝道者ビリー・グラハム氏の子息で援助組織『サマリタンズ・パース』総裁のフランクリン・グラハム氏は、地震被害者に援助出来るなら、宗教活動を控えることに良心の呵責を感じないとして、「人々が死に直面している時に、そこにいて、答えることでこそ、神の愛を示すのだ。今は説教することを望む時ではない。後でそのための機会はある」と言う。地震発生時、グラハム氏は中国政府国務院宗教事務局と公認教会訪問のため中国にいた。
直ちに公認教会のために30万ドル(約3100万円)提供を約束し、さらに大規模な援助物資空輸のために自分のチャンネルを使って関係筋と折衝を始めた。成都に到着した米国非政府組織の援助物資ではグラハム氏のものが最初だったと言う。
中国当局はグラハム氏に、福音伝道は出来ないとはっきり言ったわけではないが、「基本原則は知っていたから、四川省で説教することは頼まなかった。ただ、私たちがキリスト者だとは言った」と同氏は述べている。
中国国務院宗教局は、中国で宗教活動に従事する外国人は関係法令に従わなければならないとしているが、それには宗教パンフレット禁止と許可なしの改宗も含まれている。
『サマリタンズ・パース』が5月23日にノースカロライナ州シャーロットから成都に向けて援助物資を満載した飛行機を出発させた際の記者会見には、中国大使館の担当者も同席した。100万ドル以上のテント、水濾過装置などの物資は、『サマリタンズ・パース』スタッフが使い方を教授した後、中国政府と軍を通じて配布された。
四川省で活動しているキリスト教救援団体『オペレーション・ブレッシング』も、これまで世界のどこでも改宗活動はしておらず、中国政府とは長年にわたる関係を維持していると言う。
強力な公式ルートを通じる活動を評価するものの、自らそのようなルートを持たないキリスト教援助組織は、自分たちの活動の方が受ける制約が少ないと指摘する。
『対華援助協会』も20家族分のテントを持ってボランティアが中国に向かった、とボブ・フー会長が語った。現地の非公認教会と接触、そこを通じて個人的にテントを届ける計画と言う。「私たちはテントを配り、『イエスはあなたを愛している』と言う。その人たちのために祈り、その心を慰め、相談にのってあげたい。被害者が必要とするものは水や食糧など物質的なものだけではなく全体的なものだ」と、フーさん。ただそれは自分たちや非公認教会のボランティアを危険にさらすことにもなる。
すでに中国人ボランティア3人が物資を配る際に祈ったのを理由に警察に拘留されたとの報道を聞いたと言う。四川省宗教局は問い合わせに答えなかった。
ロサンゼルスに本拠を置く宗教の自由擁護団体『オープンドアーズ』のカール・メラー総裁は、どのような政治的な懸念をも宗教は超越すべきと思うとして、「イエスが、世界に出かけて伝道するようにと言った時、ビザを取得出来る場所に行くようにとは言わなかった」と述べている。「最も純粋な意味で福音伝道をすることは政治に関係ない」と言う。
成都行きを断念したブライトさんが中国を離れる際、親切なタクシー運転手が、寄付を集めているる政府関係機関に連れて行ったと言う。そこで援助物資を降ろした。「祈りが正に聞かれたようだった」と語っている。
◎北京五輪で政治や宗教の掲示禁止
【CJC=東京】北京五輪組織委員会は6月2日、外国人が五輪開催時に守るべきことをまとめた「法律指南」を発表した。「五輪開催期間の外国人出入国およびその滞在期間に関する法律指南」が公布されたもの。今夏の北京五輪開催時に外国人が順守すべき事項をまとめた。「市内だけでなく五輪競技場などで宗教、政治、人種に関するいかなるスローガンを掲げることも禁止する」という。
禁止項目は50以上あり、「テロや密輸、買(売)春などをする可能性のある者は入国できない」ほか、「侮辱的」な内容のスローガンや「秩序を乱す行動」を禁止しており、政治的に敏感な問題に関して叫ぶ行為も取り締まり対象となりそう。「宗教、政治、人種差別的」な行動、展示も禁止している。また「公共の場所で中国国旗を燃やしたり破損、踏み付けるなど侮辱すれば刑事責任を追及する」としている。
人権団体メンバーなどが「政権転覆活動をする可能性がある」として入国できなくなる可能性も指摘される。
検疫上の理由から「中国国内に外国人が持ち込めるペットは1人1匹で犬か猫に限る」。街のイメージを守るため「公共の場所での野宿を禁止」し、ディスコ、ゲームセンターなどの娯楽施設は「午前2〜8時まで営業はしない」などの規定もある。
◎駐パキスタン・デンマーク大使館付近で自動車爆破
【CJC=東京】パキスタンの首都イスラマバードのデンマーク大使館付近で6月2日午後、自動車爆弾を使った自爆攻撃が発生し、少なくとも8人が死亡、米国人10人を含め約30人が負傷した。3月15日にイスラマバードで起きたイタリアンレストランでの爆破事件以来のこと。
デンマークのラスムセン首相は同日、「卑劣な犯罪であり、正当化できない」と非難した。
一方、ノルウェー外務省は同日、イスラマバードにある大使館を一時閉鎖したことを明らかにした。
犯人は明らかにされていないが、2005年にデンマークの新聞が預言者ムハンマドを諷刺する漫画を掲載したことに関連があると見られる。
パキスタンでは、イスラム教徒にとって冒とく的でと受け取られた漫画がデンマークの新聞に掲載されたと伝えられると、06年には全土で反対デモが起き、死者が少なくとも5人出るまでになった。
今年3月には、オランダで作成された反イスラム映画『フィトナ』に、パキスタンなどで抗議の声が上がった。
◎トリノ聖骸布を2010年に公開、教皇が発表
【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世は6月2日、イエス・キリストの埋葬時に遺体を包んでいたと広く信じられている『トリノ聖骸布』を、2010年春に一般公開すると発表した。トリノから訪問したセヴェリーノ・ポレット大司教(枢機卿)ら7000人とサンピエトロ大聖堂で接見した際に明らかにしたもの。
バチカン(ローマ教皇庁)のVIS通信によると、教皇は「主が生命と健康を下さるなら、私も行きたい」と語った。
聖骸布が公開されたのは20世紀に入ってからは4回だけ。前回の一般公開はカトリックの大聖年にあたる2000年で、会場のトリノ市内の大聖堂には100万人以上が来場した。
聖骸布は長さ4・39メートル、幅1・15メートル。温度調整された容器にしまわれている。1988年に行われた炭素年代測定では、中世に織られた布であるとの結果が出ている。バチカンは83年、聖骸布の所有権を取得した。
◎教会が郵便局を運営すると...米コネチカット州で訴訟に
【CJC=東京】郵便局の運営を民間委託することなら、珍しくもないが、それがキリスト教関係の会社だとややこしくなる。そんな一例が米コネチカット州マンチェスターにあった。
「教会が郵便を配達して良いのか。郵便局が福音を宣伝しても良いのか」と現地紙ハートフォード・クーラントが報じている。
マンチェスターの住民ベトラム・クーパー氏はユダヤ教徒。2003年に郵便局を訴えた。純福音国際教会が設立した会社『シンシアリー・ユアーズ』と契約したのをめぐってのこと。
その会社は、マンチェスターの繁華街で郵便局を運営をするために設立された。ただ同社が局舎内に宗教的な展示をしたことにクーパー氏が反発、提訴したもの。
大通りにある局舎に宗教的な展示をしたり、十字架などのシンボルを置くのは、政教分離を規定した憲法修正第1条違反だと言う。
連邦地裁のドミニク・J・スカトリト判事は2007年4月、展示が「教会の信仰を、公衆が分かるように示し、キリスト教を宣伝し、外部の人に教会に来るよう呼びかけている、と認めた。
一方、郵便局と教会は、第2巡回裁に控訴した。その後、郵便局は控訴を撤回したが、教会側は後に引かない構え。
◎デトロイトで十字架からイエスの彫像盗まれる
【CJC=東京】デトロイトの救世主教会にある十字架からイエス・キリストの2・5メートル近くある彫像が6月4日盗まれた。同教会のバリー・ランドルフ牧師は、犯人が、銅価格が高騰しているため、スクラップとして売るために銅を捜していたと見ているが、問題は、像がしっくいで作られていること。彫像は緑色で、銅のように見えので勘違いされた可能性がある、と言う。いつ彫像が奪われたかは分からないが、2日の月曜日になって気づいた。
警察は、泥棒が石膏像を銅と間違ったという説には疑問を持っている。「銅を盗む人は、銅が何であるか、どんな感触のものか知っている」と係官。
問題のイエスの彫像は教会に戻った。近くの道端の繁みの中にあったのを4日にバスから降りたパトリシア・ボワーズさんが見つけたが、盗まれた彫像とはニュースを知るまで分からなかったとか。
◎ロックのパイオニアのボ・ディドリー死去
【CJC=東京】ロックンロール創始者のひとり、ギタリストのボ・ディドリーが6月2日、心不全のためフロリダ州アーチャーの自宅で死去した。79歳。1928年12月30日、ミシシッピ州南部マッコーム生まれ、本名はエラス・O・B・マクダニエル。エルビス・プレスリーらの同世代として新しい音楽スタイルを生み出し、ロックンロールの潮流を作った。87年にロックの殿堂入り。70歳を超えてからも演奏活動を続け、88年、92年、97年、2001年に来日している。
80歳を目前に控えてなお精力的にツアーをこなしていたが、07年5月に公演先のアイオワ州カウンシルブラフスで、脳卒中のため入院、8月に心臓発作を起こしていた。
ディドリーは日頃アーチャーの『キリストにある神の教会』に通っていた。曾孫の副保安官で同教会執事のガリー・ミッチェル氏は、家族に囲まれ「とても安らかに、眠っているうちに」死去したと語った。「思い出すのはすてきなことばかり。彼は世界のボー・ディドリであったが、家にいる時はおじいちゃんだった。彼の愛は路上でもどこでも示された。芸能人として、彼は愛をこめて活動し、おじいちゃんとしても愛をこめてふるまった。あれほどに偉大な人がとても謙虚であることを知るのは素晴らしいことだ」と言う。
葬儀は7日、同州ゲーンズビルのブレッシング・ハーベストセンターで。
◎クレメント・ジョン氏死去
【ジュネーブ=ENI・CJC】パキスタンの人権活動家として知られたクレメント・ジョン弁護士が6月2日、米ミネソタ州の自宅で死去した。67歳。世界教会協議会(WCC)とアジア・キリスト教協議会に貢献した。パキスタンのラワルピンディにあるキリスト教研究センター副所長に就任するため故国に帰ると発表したばかりだった。「クレメント・ジョンは優秀な弁護士であった上に、パキスタンの教会とキリスト教一致を目指す世界教会運動への献身によって評価される」とWCCのサミュエル・コビア総幹事は語った。
1941年ペシャワル生まれ。シンドで学校教育を終了し、カラチ大学から法学士(労働法)の称号を得た。カラチYMCA理事、聖公会とローマ・カトリック教会の正義と平和協議会創設メンバー。83年に、アジア・キリスト教協議幹事、93年にWCCの国際関係部門のスタッフとして加わり、2006年の引退まで国際関係の教会委員会の委員長を務めた。
《メディア展望》
=カトリック新聞(6月8日)=https://www.cwjpn.com
★四川大地震=中国の教会 支援本格化=修道女ら被災者の中へ
★日本でも 大地震被災者支援=中国人信徒や兵庫の学生ら
★外国人労働者の声聞き 教会の課題さぐる=「移住労働者と共に生きるネットワーク・九州」総会
★女子修道会総長管区長会総会=日本の教会の方向性考える=殉教者の時代から「光」も
★朝祷会第47回全国大会=殉教者想い、ともに 教派越えて学び 祈る
=キリスト新聞(6月7日)=https://www.kirishin.com
★聖公会 ルーテル教会 合意文書刊行=合同礼拝・聖餐式行われる=「共に食卓を囲む」をテーマに
★ミャンマー・サイクロン、四川大地震=被災地支援始まる
★庭野平和賞=ハッサン氏に贈呈=平和と世界の諸問題への取り組みに
★バックストンの聖書公開=信仰の継承願って=教文館で「光輝展」
★福祉人材の養成 専門学科で対応=東京基督教大・聖学院大
=クリスチャン新聞(6月8日)=https://jpnews.org
★「ワトト・チルドレンズ・クワイア」来日公演=エイズ・内戦孤児らが希望のメッセージ=「人生の可能性知った」
★カイロスセミナー=世界宣教の視野拡大促す=「創世記から続く神のビジョン」
★JEA、OM緊急支援=「教会への援助」困難なミャンマー・中国に
★JEA青年宣教セミナー=失敗を恐れない姿勢=過ちには早期の転進
★ペンテコステに世界212か国で祈祷=国、民族、言語超え祈る=グローバル・デイ・オブ・プレイヤー
=リバイバル新聞(6月8日)=https://www.revival.co.jp
★台頭する新世代教会=ジーザスライフハウス 初カンファレンス開催
★クリスチャントゥデイが牧師を告訴=救世軍山谷真少佐に210万円を請求
★中国・四川大地震=緊急支援と福音を被災地に
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