世界キリスト教情報 第895信(2008.03.10)
- カトリック教会がマルチン・ルターの名誉回復?
- カトリック・イスラム教徒間の対話フォーラム創設へ
- エキュメニカル総主教が教皇と会談
- 中国の教会事情をバチカンが論議
- イラクでモスル大司教誘拐される、警護ら3人殺害
- エルサレムでユダヤ教神学校襲撃、学生8人死亡
- 十戒を受けた時のモーゼはハイだった、とイスラエル学者
- カンタベリー大主教の「イスラム法導入」発言に議論拡大
- 《情報レムナント》
- 《メディア展望》
◎カトリック教会がマルチン・ルターの名誉回復?
【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世が、1521年に当時の教皇レオ十世によって破門された、宗教改革者の1人マルチン・ルターは異端ではなかったとして名誉回復を検討している、とイタリア紙ラ・スタンパがバチカン観測筋の話として3月6日報じた。
この9月に、教皇の夏の離宮カステルガンドルフォで開催される神学者の会合で、教皇はルターについて論議することにしているという。
ルターは教会の権威に反抗したことを非難されたものの、彼自身はキリスト教に分裂をもたらす意図はなく、教会の破滅的な行為を止めさせようとしたのだ、という点を論議するものと見られる。
ルターの功績とされる聖書のドイツ語への翻訳で、一般市民が聖書に触れやすくなり、その改革的な神学上の見解は、聖書と教会の現実的な行いとの乖離を強調することになって、破門につながった。
カステルガンドルフォに集まる学者は40人と見られる。「教皇と学者の見解は、ルターが歴史よりも、よりカトリックの見解を持っていた」ということだ、と同紙は報じている。
教皇庁キリスト教一致推進評議会議長のワルター・カスパー枢機卿は、ルターの名誉回復の動きは、カトリックとプロテスタントの間の一致へ向けての対話推進に役立つと語った。
「ルターからは、神の言葉を重く見たことを始め学ぶべきことが多くある」として、ルターを「より積極的に」見るべき時が来たのだ、と言う。ルターは「(カトリック)教会が長い時間を掛けて採用して来た改革を予知していた」とも今では見られる、と枢機卿は付け加えた。
9月の会合では、イエスが権威を弟子ペテロに与え、それが教皇制度につながったとする使徒継承の問題も取り上げられることになろう。宗教改革当時、ルターは「神の啓示が聖書にのみ示され、教会を通じては示されない」とする、聖伝を否定し聖書のみを重んじる改革者の考えに一致してはいなかった、という学説もある、と英紙デイリー・メールは報じている。
ルター再評価は、着座3周年を目前に超保守派のイメージをやわらげようとする動きの一環とも見られる。地動説を主張して、異端とされたガリレオ・ガリレイについても、その名誉回復を決定的にするため、望遠鏡製作400周年の2009年に銅像を樹立する計画もある。
◎カトリック・イスラム教徒間の対話フォーラム創設へ
【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世は3月5日、カトリック者とイスラム教徒が対話を行う常設の『カトリック・イスラム教徒フォーラム』の創設を承認した。第1回フォーラムは11月4~6日にローマで開催される。テーマは「神の愛、隣人の愛」。サブテーマは初日が「神学的ならびに精神的な基本について」、2日目が「人間の尊厳と相互尊重」。最終日は公開セッションを行う。
2006年に教皇がドイツのレーゲンスブルグ大学で行った講演で、イスラムの教えを「邪悪」「残酷」とするビザンチン帝国皇帝の発言を引用したことからイスラム諸国の反発を招いた経緯があり、イスラム教指導者グループがカトリック教会の指導者との対話を求めていた。
英、ヨルダン、トルコなどのイスラム教指導者ら138人で構成された代表団が3月4~5日、バチカンで教皇庁諸宗教対話評議会と会談、複数のイスラム教指導者側代表がフォーラム期間中に教皇ベネディクト十六世と会談することで合意した。代表の人選は今後、イスラム教指導者側が進めると見られる。
◎エキュメニカル総主教が教皇と会談
【CJC=東京】ローマを3月5日から7日まで訪問した正教会の最高指導者エキュメニカル総主教バルトロメオス一世が6日、バチカン宮殿で教皇ベネディクト十六世と会談した。
総主教と使節団の訪問は、創立90周年を記念する教皇庁立東方研究所の招きに応えたもの。
教皇は総主教と個人会談の後、バチカン宮殿のウルバーノ八世礼拝堂で共に祈りを捧げた。
教皇は、2006年11月、エキュメニカル総主教庁の保護者・聖アンデレの祝日を機会にイスタンブール訪問、昨年10月には、ナポリで開かれた諸宗教代表者による平和祈願の集いに次いで両者の出会いは3回目。
◎中国の教会事情をバチカンが論議
【CJC=東京】聖座(バチカン)が3月8日、中国のカトリック(天主教)教会問題について10~12日に開催する高位聖職者の会議に中国人司教も参加する、と明らかにした。
教皇ベネディクト十六世は、中国との関係改善を教皇職の優先課題にしており、北京との外交関係再開に熱意を示している。
教皇は昨年、特別書簡を中国のカトリック者に送ったが、それへの反応を会議で評価するものと見られる。
書簡で教皇は、中国の地下教会を称賛する一方、公認(官方)教会に属する人たちとの和解を信者に促した。
バチカン当局は、今回の会議で、「中国にある教会の有り様の重要な側面について議論する」と語っている。
中国では、信徒数百万人が教皇に忠誠を示す非公認の地下教会に属しており、抑圧の危険にさらされている。カトリック聖職者の投獄事件も発生している。
共産主義政権成立後の1951年、カトリック教会はバチカンとの絶縁を強制された。
ミサなどの礼典は、公認教会にのみ認められている。公認教会はバチカンの意向に関係なく、独自に司教を任命して来た。しかし2007年、バチカンもみとめた司祭が公認教会の北京の司教として任命された。司教任命権は教皇のみが保持すると言う聖座と中国政府との間の緊張緩和を示すものと見られている。
◎イラクでモスル大司教誘拐される、警護ら3人殺害
【CJC=東京】イラクのモスルで2月29日、カルデア典礼教会モスル大司教のパウロス・ファライ・ラホ氏が、武装集団によって誘拐された。大司教は、教会を出て車に乗ったところを武装集団に襲われた。誘拐者らは同乗していた大司教の警護2人と運転手を銃で殺害、大司教を連れ去った。
教皇ベネディクト十六世は、イラクの教会全体に深い衝撃を与える行為を深く悲しみ、バビロニア総大司教エマヌエル三世デリー枢機卿とすべてのキリスト教共同体、そして犠牲者の遺族に精神的一致を表し、大司教の解放とイラクの和解と平和のために共に祈るよう、信者らに呼びかけた。
教皇は3月2日、日曜正午のアンジェラスの祈りの際、モスル大司教のために深い憂慮を示し、健康状態がすぐれないラホ大司教の一刻も早い解放を教皇はアピールされると同時に、同大司教の誘拐時に共にいて殺害された3人の若い犠牲者の冥福を祈った。
また、教皇はイスラエルとガザ地区で非常に高まった緊張に触れ、イスラエルとパレスチナの双方が暴力の連鎖をすみやかに絶つよう呼びかけた。
◎エルサレムでユダヤ教神学校襲撃、学生8人死亡
【CJC=東京】エルサレム郊外のユダヤ教神学校『メルカズ・ハラブ・イェシヴァ』で3月6日、侵入してきたパレスチナ人運転手アラ・アブダイムが大勢学生の集まっていた図書室で無差別に発砲し、少なくとも8人のユダヤ人学生が死亡、約10人が負傷した。犯人は現場に駆けつけたイスラエル兵に射殺された。
同神学校は、ヨルダン川西岸での入植活動を推進し、入植地建設や拡大で指導的役割を果たしていることで知られる。
事件後、現場周辺にユダヤ人らが集まり「アラブ人に死を」と連呼した。ガザではイスラム過激派ハマスや『イスラム聖戦』などが学校襲撃を祝って空に発砲した。ガザでは今月初めから、イスラエル軍の激しい攻撃で120人以上を殺害したことへの報復の可能性もある。ガザを支配するイスラム原理主義組織『ハマス』は犯行を「英雄的作戦」「シオニストによる虐殺への自然な反応」と称賛した。パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は犯行を非難している。
◎十戒を受けた時のモーゼはハイだった、とイスラエル学者
【CJC=東京】旧約聖書に登場するモーゼはシナイ山で神から十戒を授かったとされているが、それは麻薬の影響による幻覚経験だった可能性が極めて高いイスラエル・ヘブライ大学のベニー・シャノン教授(認知心理学)の論文が、英心理学雑誌『タイム・アンド・マインド』に発表された。
シャノン教授は、イスラエル放送との3月6日のインタビューで、「シナイ山上のモーセに関する限り、超常現象とも伝説とも信じられず、モーセやイスラエルの民が麻薬の影響を受けていた中での出来事だったと思われる」と語っている。
出エジプト記の中に出てくる雷鳴と稲妻、角笛の音などは、麻薬の影響下にある人間が持つ典型的なイメージだ、と同教授は言う。モーゼが「燃える柴」を見たとの表現も、麻薬の影響を示しているという。
教授は、シナイ半島で自生する植物2種類に、ブラジルのアマゾンの森林で発見された1種と同種の成分があることを発見した。アマゾンの植物は、強力な向精神薬アヤフアスカの原料として知られている。
ユダヤ教指導者の反応は冷淡なもので、正統派のラビ、ユヴァル・シャーロウ氏はイスラエル放送に「聖書は深遠な出来事を伝えるもの。心配しなければならないのは聖書のモーセの運命ではなく、科学の運命だ」と語った。
◎カンタベリー大主教の「イスラム法導入」発言に議論拡大
【CJC=東京】英国国教会の最高指導者カンタベリー大主教ローワン・ウイリアムズ氏がイスラム法(シャリア)の一部導入を容認するとの発言に議論が広がる英国で、人気ミステリー作家ルース・レンデル氏(78)が3月6日、大主教の発言は「旧態依然として」「逆行的だ」と苦言を呈した。AFP通信が報じた。
レンデル氏はバロネス(女男爵)で、上院議員。著書の多くは世界的なベストセラーになり、25か国語に翻訳されている。またバーバラ・ヴァインというペンネームでも執筆している。
「女性にとっても、男性にとっても英国の法体制にほかの法制度を持ち込む必要などない」と言い、英国にはすでに別の法体制やシャリア法廷が存在している、との大主教発言は多くの人にとって驚きだった、とレンデル氏は述べている。
また、イスラム教の教えが現代の英国女性にとって、受け入れがたいものだと指摘、「シャリアは男性が女性の面倒をみるという考え方をするが、これは男女平等が基本となっている我々の文化においては、女性が男性よりも劣った存在だと見ているように聞こえてしまう」としている。
《情報レムナント》
▽同志社クラーク記念館:保存工事終了記念し講演会「寄付者希望で命名変更」
同志社大(上京区)のシンボル「同志社クラーク記念館」(国重要文化財)の保存修復工事終了を記念し、同館のクラーク・チャペルで8日、講演会が開かれた。本井康博・同大神学部教授が神学館の変遷について講演。
本井教授は、1963年に現在の神学館が完成するまでの歴史を紹介。館名の由来について「クラーク記念館は当初、創設者の新島襄を記念し建てられる予定だったが、建設費を寄付した米国の資産家・クラーク夫妻が、息子の名前を建物に命名することを寄付の条件にした」と話し、「息子の名前は『クラーク神学館』と校舎名にし、新島の名前は神学校の名に使った」と明かした。(毎日新聞3月9日)
《メディア展望》
=カトリック新聞(3月9日)=https://www.cwjpn.com
★第14回日韓学生交流会=「殉教」テーマに長崎で
★キリスト教学校教育懇談会=宗教教育の今を考える=教派超え 講演会・シンポジウム
★ブラジル人学校で初聖体準備=課外時間に修道女が月2回
★日本キリスト教連合会=新・公益法人制度施行に向け講演会で特徴学ぶ
★教皇、国際会議参加者に「介護者にも支援を」
=キリスト新聞(3月8日)=https://www.kirishin.com
★世界教会協議会(WCC)=創立60周年で新たな岐路=外への発信問われる
★同志社大クラーク記念館=創建時の姿に復元=3つ目のチャペルとして活用へ
★"本来のリベラル・アーツを"=キリスト教学校教育懇談会=西原廉太氏が提言
★米主流派の教勢停滞=『米加教会年間』2008年版
★ポーランド・カトリック教会 召命減に直面
=クリスチャン新聞(3月9日)=https://jpnews.org
★土肥隆一氏=「日韓の今後に希望見た」=大統領就任に先立ち李明博氏と懇談
★「暴力の連鎖断ち切るべき」=相次ぐ死刑執行に宗教団体共同声明
★未伝地開拓の課題を共有=教会生み出す教会づくりを=日韓の牧師ら集まり東京宣教会議
★横浜地裁浜松支部判決=HCC浜松教会の訴え棄却=牧師の暴力など認定=反訴も棄却
★教派超え国のため祈る=第8回国家晩餐祈祷会
=リバイバル新聞(3月9日)=https://www.revival.co.jp
★御言葉の深みを説く=日本ケズィック東京大会
★ナルニア第2弾、5月公開『カスピアン王子の角笛』
★マレーシア=宗教の自由の行方にキリスト教が懸念
●世界キリスト教情報●ご案内
☆活動のご紹介は https://homepage2.nifty.com/cjc-skj/
☆既刊号をご覧頂くには https://cjcskj.exblog.jp/
☆記事検索は『教会と神学』(小原克博氏制作)をご利用願います。
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