今日はレズラズィさんと、CISMORの新しい研究プロジェクト「教育と宗教政策――中東の教科書における非イスラーム宗教のイメージとその意味」の立ち上げについて話し合いました。
アメリカや中東各国の関連研究機関とネットワークを作り、CISMORがホストになって企画を進めていくのですが、いきなり大それたことはできませんので、ぼちぼちやっていこうということになりました。
研究規模はともかくとして、教科書の分析を通じて、中東における動向を探っていくのは非常に興味深いものです。たとえば、イラクでは、1991年(湾岸戦争) 、2003年(サダム・フセイン政権の崩壊)といった時期を節目として、教科書における宗教の記述が大きく変わってきています。
伝統的には、多くのイスラーム国では、イスラームを最高の宗教に位置づけ、ごく部分的に、その中で、ユダヤ教やキリスト教について(しばしば否定的に)語ることが多かったようです。
ちなみにレズラズィさんが子どもの頃、キリスト教は三つの神を信じる間違った宗教だと教えられ、その三つの神とは、創造者なる神、イエス、マリアだと教えられたとのことです。もちろん、これはコーランの記述に由来します。
たとえば、キリスト教の三位一体論批判として、コーラン5,73には次のような箇所があります(井筒俊彦訳)。
「まことに、神こそは三の第三」などと言う者は無信の徒。神というからにはただ独りの神しかありはせぬはず。あのようなことを言うのを止めないと、無信の徒は、やがて苦しい天罰を蒙ろうぞ。
レズラズィさんは、日本に来てはじめて、キリスト教の三位一体論が創造者なる神、イエスそして「マリア」ではなく、三番目が正しくは「聖霊」であるということを知って、驚いたとのことでした。やはり教科書の影響力は侮れません。
教科書の他に、モスクでの説教、メディアからどのような影響を受けるのか、年齢別にも検討していく予定です。
中国における反日デモを主導した若い世代は、反日的な内容の教科書によって育ってきたことが、よく指摘されています。日本の教科書問題も大きな課題ですが、中東世界において、若い世代がどのような教科書で、どのような教育を受けるか、というのは、今後の平和構築に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
アメリカ政府は、教科書の「民主化」を進めようと、かなりてこ入れしようとしている様子ですが、それとは違うスタンスで中東の状況を見ることができればと思っています。
日本の外務省も、教育関係にはODAを出したいという気持ちがあるものの、そこに宗教がからむか、からまないかの見極めが難しく、二の足を踏むことが多いようです。ODAで立てた学校で、イスラーム過激思想が教えられていたことが後になってわかる、という失敗例もあるようです。
■CISMOR講演会「マスメディアと宗教――日本のマスメディアによるイスラーム世界の報道」(3月12日)
http://www.cismor.jp/jp/research/lectures/050312.html