明日10日、キム・ヒョプヤン先生によるES細胞研究をめぐる講演がありますが、日本における、これまでの経緯と現状を知るためには、次の本がきわめて有益です。
島薗進『いのちの始まりの生命倫理――受精卵・クローン胚の作成・利用は認められるか』春秋社、2006年。
出版されたばかりの本です。島薗先生(東京大学)は宗教学を専門とされていますが、国の生命倫理専門調査会のメンバーとして、ES細胞研究のあり方について審議してこられ、上記の本はその経緯をまとめられたものです。細かい議論もたくさんありますが、良質のドキュメンタリー番組を見たような充足感を与えてくれます。
さらに言えば、危機感を喚起してくれる書でもあります。というのも、ES細胞研究の承認を強引に取り付けた内幕も描かれており、そうした結論の出し方に反対して提出された「共同意見書」(対案)の執筆者の一人が島薗先生だからです。
この一件については、昨年7月に新聞報道を見ながら、強引な幕引きだな、という印象を持っていましたが、どのような内部事情があったのかを上記書物は教えてくれます。
「あとがき」の最後にある島薗先生の言葉「今後の日本の国レベルでの生命倫理の審議は、いわば一から出直しといういうべきところにある」は、思い意味を持っています。