小原On-Line

書籍・雑誌: 2011年5月アーカイブ

 最近出たばかりの黒木 登志夫『知的文章とプレゼンテーション──日本語の場合、英語の場合』(中公新書)を読みました。この手の本は、個人的な関心があるだけでなく、学生に薦めることができるかどうかチェックするために、比較的幅広く読んできました。
 著者は、高名な、がん研究者。40年にわたる論文執筆等の経験や英語への取り組みをまとめていますので、こうした先達が伝えるエッセンスには耳を傾けるべきものがあります。

 日本で当然と思われている理系・文系の区別は国際社会ではほとんど意味をなさず、論理的な思考をし、説得的な文章を書くためには、理系・文系の区別など基本的に関係ない、という主張から始まっています。
 著者があげる知的三原則とは「簡潔・明解・論理的」。当たり前と思うかもしれませんが、日本の学術界でも、なかなかこの原則が守られてはいません。
 著者の主張だけでなく、それぞれのテーマに関して、様々な人の意見を紹介してくれているのも、この本の魅力の一つでしょう。私が学生によく紹介する、村上春樹のマラソンと文章執筆の関係についても言及されていました。小説家にとって重要なのは才能のほかに、集中力と持続力。そして、集中力と持続力は、才能と違って、後天的に獲得できる、ということです。
 研究費の審査の部分などは、学生や一般の方にはピンと来ないかもしれません。また、プレゼンテーションについては、それだけで独立した良書がたくさんありますので、この部分は、人によっては、まったく物足りないでしょう。
 しかし、全体的には、学部学生から、知的文章を書きたいと願う一般の方々まで、考えるべき内容を提示してくれる良書だと思います。
 理系と文系の本質的な違いはないと著者は主張しつつも、次の一文は人文系学者に対し、今さらながらの課題を突きつけてくれています。

 「彼ら(人文・社会科学系の学者)の多くは、普遍語というご主人様(注:英語のこと)を無視して、いまだ日本語の世界で生きている。このため、わが国のこの分野の科学は、言語的に孤立し、世界から認知されることが少ない。」

 人文・社会科学系の学者さんたち、がんばりましょう!

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近  著

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