小原On-Line

書籍・雑誌: 2006年8月アーカイブ

 大貫隆ほか編『一神教とは何か――公共哲学からの問い』(東京大学出版会)書評を掲載しました。かなりごつい本です。そして、お値段もそれなりにご立派!(5985円)
 これだけ高額の本は、さすがに誰にでも勧めるわけにはいきませんが、そこそこ読み応えがあります。「そこそこ」というのは、読者の関心の程度にもよりますが、執筆されている内容すべてがおもしろいというわけではないからです。しかし、大貫氏の論考をはじめ、興味深いものはいくつか(いくつも?)あります。関心のある方は、書評をご覧になって、実際の本を手にされるとよいと思います。

 それにしても、これだけ値の張る本を堂々と出せる東大出版会はご立派です(嫌みじゃないですよ!)。

書評『一神教とは何か――公共哲学からの問い』

 最近、金城学院大学キリスト教文化研究所編『宗教・科学・いのち――新しい対話の道を求めて』(新教出版社)が出版されました。
 私も一文を寄稿しています。タイトルは「「宗教と科学」に見る近代化の諸相―進化論を中心にして」です。導入部分を読むことができます。出版されたばかりなので、続きを読みたい方は本を購入するか、図書館で借りて読んでいただきたいと思います。
 本の全体テーマの一つは「宗教と科学」なのですが、その問題設定が前提としているフレームワークを批判的に問うことを、拙稿の中では試みました。以下、そのポイントなる文章を引用しておきます。

宗教と科学の相補的な関係を問うことは、知的好奇心を鼓舞する魅力的なテーマである。しかし、その組み合わせが繰り返し語られる前提には、科学分野における西欧キリスト教世界の圧倒的な勝利宣言があるということを認識すべきであろう。この自己省察を欠いたまま、宗教と科学の関係を問うことは、結果的に、キリスト教こそ、他のすべての宗教に先立ち、またそれらを代表して、近代科学と対になり得る唯一の宗教であるという優越感と、他の宗教や文化に対する差別感情を増長させることになりかねない。
 この課題をより自覚的に受けとめていくために、本稿では宗教と科学の関係を批判的に問う事例として進化論を取り上げることにする。

 ようやく採点が終わりました。これから少しは夏休みモードにはいれそうです。

 さて、Yokoさんがコメントで紹介してくださっていた『アメリカの原理主義』を読み終わりました。さすがに記者の方だけあって、最近の出来事をインタビューや統計データなどを用いて、細かく描写しています。読みやすい本です。
 アメリカ宗教史がご専門の森先生も、この本を読まれ、互いの感想を交わしました。森先生は「文章がへただな~」との第一印象を語っておられました。
 確かに、ぐいぐいと引き込んでいくような文章展開はありません。いろいろな事実を取材経験を軸にしながら、淡々と語っていっているという面はあります。しかしそれゆえに、あまり引っかかりを感じることなく読み進めていくことができる、とも言えます。

 事実の相関関係をまとめあげる肝心なところで、著者自身の言葉ではなく、その道の大家に語らせることによって、うまくすり抜けているという点が少々気になりました。概念の整理が少し弱いかなという印象を持ちました。

 ちなみに、タイトルにもなっている原理主義についての説明は、何と最終ページになって初めて出てきます。それも辞書からの引用です。やっかいな概念であることは理解できますが、もう少し手前で出して、その概念を事例を通じて吟味していくという手法を取った方がよかったのではないかとも思いました。

 また、欲を言えば、宗教右派とユダヤ・ロビーとの関係に言及して欲しかったです。宗教右派とネオコンとの関係については、かろうじて触れられています。しかし、昨今のイスラエルと取り巻く情勢においていっそう明らかになってきたように、なぜアメリカは、これほどまでイスラエルに肩入れするのかは、多くの人の関心事であると思うからです。

 ちょっと辛めの評価をしてしまったかもしれませんが、全体としては、近年のアメリカの宗教性や、それと政治との結びつきなどを生き生きと教えてくれる好著であると言えます。

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