今日は午後から、平和学習会「平和な世界にするために――仏教の視点から」に参加しました。講師は西本願寺の僧侶である季平博昭氏。
西本願寺は、門主を筆頭に、首相の靖国神社参拝反対や、イラクへの自衛隊派遣の反対を公に表明しています。そうした西本願寺の反戦平和運動を担ってきたのが、基幹運動と呼ばれるものです。季平氏はその基幹運動の中央相談員として、長らくその活動を担ってこられました。
西本願寺の取り組みや基本姿勢については、すでに理解していましたが、やはり、直接に運動を担っている方から話しを聴くのは大事だと思いました。
その上で、いくつか感じたことを記しておきたいと思います。
西本願寺が、太平洋戦争中に護国の念仏を唱え、戦争を正当化していったことを反省し、今、非戦・平和運動に取り組んでいるのは頼もしいことですし、特に多くの門徒を有する教団としての社会的責任も大きいと言えます。仏教教団の半数以上は、政治的にはかなり保守寄りですから、その意味でも、西本願寺が果たす役割はあると思います。
わたしが、話しを聴いていて気になったのは二点あります。一つは、平和を実現するために、まず「心の平和」が大事だとして、その例をたくさんあげられたことです。「心の平和」の大切さを否定するつもりはありませんが、この論理では、実際の生々しい政治の場や世俗社会において平和を実現できないどころか、下手をすると、かつて浄土真宗が犯した過ち、すなわち、悪しき「精神主義」を繰り返すことになりかねません。つまり、真俗二諦論を利用することによって、心の問題(信心)と社会生活(政治)を巧妙に区別し、操作してきた過去を、無意識のうちに繰り返しかねない危うさを感じました。
こうしたことを考えるときに、わたしが思い出すのはラインホールド・ニーバーの『道徳的人間と非道徳的社会』(1932年)です。思い切って単純化してニーバーの意図を説明すると、人間は理性や宗教によって道徳的になり得るが、その延長上に道徳的社会が約束されるわけではない。社会は、人間の道徳性にかかわらず、非道徳的であり続ける。社会に潜む非道徳性をいかに抑制できるのか、という現実的な問いがここにあります。この著作は、当時、エポックメイキングな政治哲学書として広く読まれましたが、ニーバーの透徹したクリスチャン・リアリズムは、今なお、大きな問いを投げかけてくれているように思います。
残念ながら、ニーバー並みのリアリズム感覚は現代のキリスト教リベラリズムの中では失われつつあります。それだけに、浄土真宗の立場から「心の平和」とストレートに言われると、どうしても引っかかってしまいます。
もう一つわたしが気になったのは、この話を若者が聴いたらどう反応するだろうか、ということです。集まっておられる方々は平和運動に並々ならぬ関心を寄せる方々ですから、その方々がうなずくのは、ある意味、当然です。
しかし、北朝鮮・中国脅威論に関心を示し、小泉首相の「戦争を二度としないために参拝している」という言葉に共感する若い世代に対し、浄土真宗からのメッセージは「空念仏」(失礼!)として響きはしないだろうかと感じました。
ただ単に小泉批判、政府批判をするだけでは、問題は解決しないどころか、皮肉なことに、若者の右傾化を促進させることになるのではないかと危惧します。内面的な心の問題と、自らを取り巻く社会や国家との間を関係づける中間的な言葉や思考が欠落している中で、いきおい国家批判をしても、今の状況では十分な説得力を発揮しない、ということです。自分たちが住んでいる社会や「くに」に、どのようにフィットしながら、そこから益を受けたり、場合によっては貢献したりできるのか、という作法が示されないまま、今日に至ったとすれば、昨今の右傾化の原因の一端は、平和運動家を含むリベラル派知識人にもあるのではないのでしょうか。
これは西本願寺に対する批判ではなく、わたし自身の反省の言葉です。
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